『鋼の錬金術師』は、荒川弘氏により『月刊少年ガンガン』上で2001年8月号から2010年7月号まで連載され、二度のアニメ化や実写映画化もされた人気マンガです。
作品を未読の方は、以下をご参照いただき、ご興味のある方はぜひお読みください。
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ゾルフ・J・キンブリー氏は、その『鋼の錬金術師』に登場する悪役であり、その独特の美学から、人間でありながら、人間の敵である人造人間(ホムンクルス)の側についた、マンガの中でもイレギュラーな存在です。
そして、キンブリー氏は、作中屈指の「好きを仕事にして」人生を謳歌した人物でもあります。
今回は、そんなキンブリー氏の美学と働き方から、「好きを仕事にすること」ついて考えていきたいと思います。
キンブリー氏のプロフィール
キンブリー氏は、アメストリアという軍事国家に所属する軍人、いわば公務員です。
紳士的な物腰とおしゃれな白スーツが印象的な、笑顔を絶やさない公務員です。
戦争という仕事に後ろ向きな同僚を以下のセリフで力強く𠮟咤激励するなど、作中での描写から、非常に仕事熱心な人物であることが見てとれます。
一人二人なら殺す覚悟はあったが何千何万は耐えられないと?
自らの意思で軍服を着た時にすでに覚悟があったはずではないか?
嫌なら最初からこんなもの着なければいい
自ら進んだ道で何を今更被害者ぶるのか
自分を哀れむくらいなら最初から人を殺すな
死から目を背けるな
前を見ろ
貴方が殺す人々のその姿を正面から見ろ
好きを仕事にしたキンブリー氏
仕事熱心なのもそのはず、キンブリー氏は自分の好きなことをそのまま仕事にしています。
キンブリー氏の好きなことは以下のとおりです。
- 意志を貫き通す人が好き
- 信念と信念のぶつかりあいが好き
- 常に死と隣り合わせの魂をかける仕事が好き
- 身体の底に響く爆発音と大絶叫が好き
これらはすべて、戦場にそろっています。軍事国家の軍人は、天職だと言えるでしょう。
作中では、戦場で脊髄が哀しく踊り鼓膜が歓喜に震えるキンブリー氏の姿を見ることができます。
好きを仕事にするということ
好きなことを仕事にするというと、うらやましいと感じる人も多いことと思いますが、実際のところは、想定外のストレスに見舞われ、「思ってたのと違う…」、「趣味に留めておけばよかった…」などと後悔する人もめずらしくありません。
好きなことだからこそ、「内容を他人に指示され、仕事として義務化され、思いどおりにできない、自由にできない」といったストレスが我慢できないようです。
しかし、キンブリー氏は、以下の生き方でその問題を克服しています。
- 仕事に美学を持つ
- 享楽的に行動する
- 自分を理解し受け入れる
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
仕事に美学を持つキンブリー氏
キンブリー氏は、仕事に美学を持って臨んでいます。
戦場で必要な戦果を上げつつも、納得のいかない顔で以下のように語っています。
んんー……
いまいち美しくない…
仕事なのですから美しく! 完璧に!!
大絶叫を伴い 無慈悲に 圧倒的に!!!
指示された仕事であっても、その与えられた仕事の達成方法を自分の美学に照らし合わせ、どこまで完璧に仕上げられるのかというやりがいを自ら作り出し、質の追求を楽しんでいます。
与えられた仕事の範囲内で精一杯に楽しむ、見習いたい姿勢です。
享楽的に生きたキンブリー氏
キンブリー氏は、思いどおりにならないときの思い切りもなかなかのものです。
あるとき、職場から貸与された仕事道具を気に入ってしまい、仕事が終わっても返したくないあまり、上司を5人殺害し収監されてしまいます。
仕事の責任感よりも「好き」が上回ってしまい、享楽的な行動に走ってしまったキンブリー氏ですが、収監されても道具を手に入れ幸せそうな様子を見るかぎり、とりあえずストレスはなさそうです。
ときには、自分の気持ちに素直になるのも悪くないのかもしれません。殺人はいけません。
自分の特性を理解しているキンブリー氏
キンブリー氏は、自分が異端であることを理解しています。
そして、異端であることを悲観することなく、無理に正しくあろうとはせず、その事実を率直に受け入れ、自らの異端な快楽を最も効果的に得られる職場として、迷わず人間の敵とも言える人造人間(ホムンクルス)のもとを選びました。
その動機について、職場の後輩にあたるエドワード・エルリック氏に以下のように語っています。
私の特性を最大限に使わせてくれるからです
私の錬金術を私の快楽のために遠慮なく使わせてくれる
しかもバックアップ付きで
そんな組織が人間側にありますか?
自分を飾らず、正しく理解し、受け入れているからこそ、ミスマッチのない職場選びができたと言えるでしょう。そこに、「思ってたのと違う…」などといった後悔が存在する余地はありません。
また、キンブリー氏の以下のセリフからは、むしろ自分が異端であることを逆手にとって、人生をやりがいのあるものにしている様子すら見てとれます。
自分が今のこの世界において異端である事はとっくにわかっています
しかし私のような者が生き残ればそれは世界が私を認めたという事
生き残りを…まさに存在をかけた闘い
こんなやりがいのある人生はそうそうありませんよ鋼の錬金術師
ハンデにもなりかねない自分の特性を積極的に受け入れ、人生を謳歌する、自分の人生を幸せにできるのは、自分だけなのです。
ゾルフ・J・キンブリー氏に学ぶ働き方
キンブリー氏は、『鋼の錬金術師』という作品をとおして、我々に以下のことを教えてくれています。
- やりがいは自分で工夫して見つける
- 自分の気持ちに嘘はつかない
- ハンデを受け入れて前向きに生きる
一度しかない人生、彼のように、好きを仕事にした上で、人生を楽しく謳歌したいものです。
なお、キンブリー氏は、物語終盤で魂だけの存在となっても、とても楽しそうでした。
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