『モブサイコ100』は、ONE氏により『裏サンデー』、『マンガワン』上で2012年4月から2017年12月まで連載され、アニメ化や舞台化もされた人気マンガです。
作品を未読の方は、以下をご参照いただき、ご興味のある方はぜひお読みください。
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人と人との関係性の大切さや、それをとおして成長する人々の様子を丁寧に描いた名作です。
霊幻新隆(れいげんあらたか)氏は、その『モブサイコ100』の主人公、影山茂夫(かげやましげお)氏の師匠であり、もう一人の主人公ともいえる存在です。
今回は、そんな霊幻新隆氏が個人で経営するちょっとあやしい「霊とか相談所」の営業内容が法的に問題ないのかについて、霊感商法の法的な扱いなどに触れつつ、考えていきたいと思います。
霊幻新隆氏のプロフィール
霊幻新隆氏は、架空の都市である調味市で、「霊とか相談所」を運営している霊能力者です。
依頼主からの依頼を、「その依頼、この霊幻新隆が引き受けた!」とアニメ版では櫻井孝宏氏の声で華麗に引き受けます。
年齢は作品開始時には27歳でしたが、作中で28歳と29歳の誕生日をむかえています。
前職は会社員(アニメではウォーターサーバーの営業マン)でしたが、飽きて辞めて、とりあえず思い立って事務所を借り、雑誌の裏面で見たパワーストーンの記事に着想を得て、雰囲気だけで「霊とか相談所」をはじめたと本人が回想しています。
その回想によると、現在の仕事は、28歳時点で4年程度は続けていることになります。
霊級値はMAXで131です。
霊とか相談所の営業内容
「霊とか相談所」で行われているのは、いわゆる霊感商法(作中では霊能商法とも表記)です。
霊感商法とは
霊感商法とは、霊感があるとうたい、相手に対して霊的な効能やメリットを授けるために、何らかの商品やサービスを提供し、その対価を受け取ることを意味します。祈祷、除霊、供養、各種グッズ販売など様々な形態があります。
あやしいと見られがちな新興宗教団体の行為であろうが、文化として皆が受け入れている伝統的な宗教団体の行為であろうが、実際の効果は証明できないため、悪徳かどうかは、対価を支払う人間が信じて納得しているのかや、商売としてクーリングオフがあるのかなどが判断基準となります。
霊幻新隆氏は、依頼人の様々な相談のほぼすべてに対して霊が原因だと断定し、霊障から肩こり、恋愛相談、ネットゲームのプレイヤー狩りまで幅広く案件を引き受け、解決に導いています。
例えば、肩が重いとの相談に対しては、以下のように対応し、一見マッサージのような施術で依頼主の悩みを解決に導いています。
最近肩が重い?
それ、呪われてますよ。肩凝り・腰痛の9割方は呪いのせいですから。
ちょっと視てみましょう。
その上で、霊幻新隆氏は、本当に霊の仕業だったにしろ、依頼人に霊の仕業だと思い込ませたにしろ、依頼人が納得し、自身も納得した場合にのみ、報酬を受け取ることにしています。
なお、作中に出てくるコース料金は以下のとおりになっています。
- 除霊(霊を20%削減):お手軽Aコース:2,000円
- 除霊(霊を50%削減):真面目Bコース:5,000円
- 除霊(霊を99%削減):本気のCコース:12,000円
- 呪い解除(マッサージ):40分コース:3,800円
別途見積もり案件として、町から都市伝説を消し去る依頼に対しては、成果報酬の後払い2万円で引き受けた例も見られました。
また、以下のように様々なキャンペーンを実施しています。
- 土日祝限定サービスパック
- 期間限定キャンペーン:悪霊が3体の場合1体分の除霊代をサービス
- 新装開店キャンペーン:全コースが20%OFF
その他、一時は以下のような営業活動もしていました。
- (霊とか相談所の)看板をぶら下げて町の清掃活動
- 心霊スポットでの除霊の様子を撮影しネット公開
- 霊能商法系詐欺に騙されないための無料講座
- 雰囲気占いと称した人生相談
良心的かつ堅実にいかがわしい商売をしている様子が見て取れます。
霊感商法の法的な扱い
霊感商法自体は、法的に問題はありません。これが違法となると、解釈次第で葬式や地鎮祭などの行為すら危うくなります。
法律上、問題となってくるのは、その商売の中身になります。
「霊感商法」が法律上に明記されたのは意外と新しく、2018年です。その条文は以下のとおりになります。
消費者契約法 第4条
3項…消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
3項6号…当該消費者に対し、霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として、そのままでは当該消費者に重大な不利益を与える事態が生ずる旨を示してその不安をあおり、当該消費者契約を締結することにより確実にその重大な不利益を回避することができる旨を告げること。
霊能者的な人が、誰かに対して、「自分には霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力がある」と伝えた上で、「そのまま放置していては重大な不利益が起こりうる」と不安をあおり、「物を買うなり、お払いと受けるなりすることでその不利益を避けることができる」と言い、お金を受け取った場合は、消費者側からその取引を取り消すことができるということを言っています。
その他、自身に霊感がないと自覚しているのに霊感商法を行った場合には詐欺罪、不安のあおり方に脅迫性がある場合には恐喝罪に問われる可能性があります。また、原価に比べて不当に高額な金額で商品やサービスを提供するような場合には、民法90条を根拠に契約の無効を主張されることがあります。
霊とか相談所は法的に問題ない?
霊幻新隆氏は、自身と消費者の両方が納得することを重要視し、サービスを提供しているため、顧客から訴えられるなどのトラブルに巻き込まれている様子はありません。
ただし、霊幻新隆氏は、自身に霊感がないと自覚しているのに霊感商法を行っているため、もし訴えられて、その事実が証明されれば、詐欺罪に問われる可能性があります。しかし、霊幻新隆氏は、そのことを十分に理解しているのでしょう、そもそも注意して訴えられないように商売をしていますし、霊感がないことを他者に証明させない機知も備えています。
実際に、マスコミに詐欺の霊感商法を疑われ、問い詰められた際には、以下のように啖呵を切っています。
ちょっと待てよ。詐欺って、俺の商売の話か?
俺がやってた事が詐欺である確証が無いならやめとけよ。
俺に霊能力が無いことを証明できる人間がここにいるのかよ?
もしくは被害者だ。詐欺行為によって被害を受けた事を、証明できる被害者は発見できたのか?
霊とか相談所の業務内容は、グレーではありますが、黒ではありません。
影山茂夫氏の時給300円問題
霊とか相談所の法的な問題は、業務内容以外のところにあります。
霊とか相談所でアルバイトとして働く中学生の影山茂夫氏の時給は300円です。
労働者に最低でも支払うべき賃金の額は、最低賃金法を根拠として、国が定めた額以上である必要があり、地域と年代によって変わります。調味市は架空の都市だとしてもその様子から日本であることが推定され、とりあえず300円ではどうがんばっても最低賃金には届きません。
そもそも、労働基準法の第56条で、「使用者は、児童が満十五歳に達した日以後の最初の三月三十一日が終了するまで、これを使用してはならない」と規定されており、中学生である影山茂夫氏を働かせること自体が違法です。
同法では「児童の健康及び福祉に有害でなく、かつ、その労働が軽易なもの」に関しては例外となっていますが、労働基準監督署の許可を受ける必要があり、霊とか相談所はあやしいので難しいでしょう。
道路交通法違反問題
また、霊幻新隆氏は、他の町に営業活動に出向いた際に、一度だけ道路交通法違反を犯している描写があります。
作中で競合の霊能力者である森羅万象丸氏にも指摘されていますが、無許可で歩道に机と旗をを設置して営業活動を行うのは、道路交通法の第76条の3項と4項の違反になります。
道路交通法 第76条
3項…何人も、交通の妨害となるような方法で物件をみだりに道路に置いてはならない。
4項…何人も、次の各号に掲げる行為は、してはならない。
4項2号…道路において、交通の妨害となるような方法で寝そべり、すわり、しゃがみ、又は立ちどまっていること。
2018年には、京都大学の学生が、交差点の中央で約10分間にわたり、こたつを置いて鍋を囲んだ結果、逮捕されています。
傷害罪疑惑
霊幻新隆氏は、たびたび暴力的な人物に出くわし、危害を加えられそうになります。
危険を感じた際には先制攻撃を行うこともあり、その行為は傷害罪に問われる可能性があります。
しかし、攻撃に使う技は「正当防衛ラッシュ」という名称であり、「厳密に正当防衛と言えるか判らない際に、とりあえず正当防衛と叫んでおく霊幻の必殺技である。」との説明書きからも正当防衛であることは明らかです。
正当防衛でした。
霊幻新隆氏は「いいやつ」
法律の問題は、最初からすべての行動に対して白か黒かがはっきりと決まっているわけではありません。被害者がいて、その被害者が加害者を訴えて、裁判をとおしてはじめて違法性が明らかになるものも少なからずあります。
その点、霊幻新隆氏は作中で言うところの「いいやつ」であり、「被害者」を出さないように商売をしています。
霊とか相談所は、そんな霊幻新隆氏の性格のおかげもあって業態そのものには違法性はないと考えられますが、ちょいちょい様々な犯罪を犯しがちだと言えるでしょう。