テレワークとは、情報通信技術(ICT/Information and Communication Technology)を活用し、時間と場所の制約を受けずに、柔軟に働く勤労形態を意味します。離れた場所を意味する「tele(テレ)」と、労働を意味する「work(ワーク)」を組み合わせた造語です。
リモートワークも同様に、時間と場所の制約を受けずに、柔軟に働く勤労形態を意味します。遠いことを意味する「remote(リモート)」と、労働を意味する「work(ワーク)」を組み合わせた造語です。
今回は、テレワークとリモートワークの違いや、導入のメリットとデメリットなどについて見ていきたいと思います。
目次
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テレワークとリモートワークの違い
前述のとおり、テレワークとリモートワークは、同じ事柄を意味する言葉として使われています。なぜ一つの意味に対して、二つの言葉が存在しているのでしょうか。
その答えは、それぞれの言葉の成立過程にあります。
まず、先に誕生したのは「テレワーク」の方でした。
テレワークは、1970年代のアメリカ合衆国にて生まれました。元々は、自動車通勤による大気汚染や石油危機などの社会問題への対策を目的として始められたものです。その後、1980年代前半に、情報技術の発達による職場へのパソコンの普及や、女性の社会進出に伴う多様な働き方へのニーズの高まりなどにより、注目を集めていくことになります。
一方で、「リモートワーク」は比較的新しい言葉で、2000年代以降に次々と勃興したIT系企業界隈で使われるようになりました。
イノベーティブ(革新的)であることを好む彼ら新進気鋭のIT系企業家たちは、自分たちのビジネスが今までのビジネスとは異なっていることを表現したいために、新しい言葉を作り出して使う傾向にあります。リモートワークもそのような言葉の中の一つだと考えられます。
テレワークという30年以上前から使われている古くさい言葉は使わずに、新しい自分たちの時代の言葉として、リモートワークという言葉を使い始めたのです。
そのような言葉が生まれた経緯の違いがあり、多くの場合、国や公式の団体、大企業などは「テレワーク」を使い、新興のIT企業やベンチャー企業などは「リモートワーク」を使う傾向にあります。
テレワーク、リモートワークと在宅勤務の違い
それでは、テレワークやリモートワークと在宅勤務は何が違うのでしょうか。
結論から申し上げると、在宅勤務は、テレワークやリモートワークの中の一形態になります。
一般的に、テレワークやリモートワークは、以下の三形態にカテゴライズされます。
- 在宅勤務
自宅に、オフィスで仕事をするのと遜色ない環境を用意し、在宅したまま業務を遂行する働き方を指します。 - モバイルワーク
移動中や顧客先などのオフィス外において、ノートパソコンや各種モバイル端末を用いて業務を遂行する働き方を指します。 - サテライトオフィス
本社や本部などの普段業務を行っているオフィス以外の場所に、会社がオフィスを用意し、そこに出勤して業務を遂行する働き方を指します。
普段業務を行っている場所に固定されない、とらわれない働き方は、そこが自宅であろうと、移動中であろうと、別の場所のオフィスであろうと、テレワークやリモートワークと呼ばれるのです。
導入のメリット
それでは、なぜわざわざテレワークやリモートワークを行うのでしょうか。
会社側の導入メリット
会社側の導入メリットとしては、以下のようなものがあります。
- 離職防止や人材確保
- コスト削減
- 営業効率の向上
- 事業継続性の確保
- 企業イメージの向上
それぞれについて、詳しく見ていきたいと思います。
1. 離職防止や人材確保
子育てや介護などが必要となり、毎日フルタイムでオフィスに出勤することが難しくなった人たちにとって、テレワークやリモートワークなどの多様な働き方が可能なことは、離職の防止につながります。
また、時間と場所にしばられない自由な働き方が可能なことは、働く会社を選ぶ側になるハイスペック人材にとって、会社を選ぶ際の一つの基準となります。誰しも、自由が得られるのならば得たいものです。
2. コスト削減
テレワークやリモートワークを実現するためには、徹底したペーパーレス化が不可欠であり、会社に付き物の膨大な紙の購入費や印刷費の削減につながります。また、場合によっては、オフィスのスペース縮小による賃貸料の削減、光熱費の削減、通勤手当の削減なども可能となるでしょう。
さらに、前述の離職防止や人材確保がうまくいけば、採用コストの削減にもつながります。
3. 営業効率の向上
モバイルワークで、移動中などの営業活動の合間の時間に、メールでの顧客対応や、資料や報告書の作成などを行うことにより、一日あたりの活動量を増やすことが可能です。
また、顧客からの問い合わせへの対応を即時性を持って行えるようになり、顧客満足度の向上に結びつくケースがあります。
4. 事業継続性の確保
テレワークやリモートワークの体制が整えておくことで、地震や台風などの大規模災害時や、感染症のパンデミック時、テロの発生時など、通常どおりの通勤が困難な状況下においても、在宅勤務などを駆使して、事業を継続し、会社の被害を最小限にとどめることができます。
5. 企業イメージの向上
テレワークやリモートワークに、ここまで述べてきたような会社にとってのメリットがあることは広く知られており、その導入を促進しているというだけで、企業イメージの向上につながります。人材獲得や株価への好影響も期待できます。
一方で、そのような企業イメージの向上を目的として、実態の伴わないテレワークやリモートワークの導入を表面上だけ公表する会社も出てきています。求職者は注意が必要です。
社員側の導入メリット
社員側の導入メリットとしては、以下のようなものがあります。
- 退職事由の回避
- ワークライフバランスの確保
- ストレスの緩和
- 生産性の向上
- 感染症リスクの低減
それぞれについて、詳しく見ていきたいと思います。
1. 退職事由の回避
会社側のメリットに記載したとおり、子育てや介護などが必要となり、毎日フルタイムでオフィスに出勤することが難しくなった人たちにとって、テレワークやリモートワークなどの多様な働き方が可能なことは、離職の防止につながります。
2. ワークライフバランスの確保
テレワークやリモートワークは、自分で働く時間と場所を自由に選択できるため、うまく活用すればワークライフバランス(仕事と生活の調和)を確保することが可能です。
家族と過ごす時間を増やしたり、趣味の時間を充実させたり、様々なメリットを享受することができます。また、男性の育児参加も行いやすくなるでしょう。
3. ストレスの緩和
会社のオフィスのような上司が常に目を光らせている環境から解放されることは、ストレスの緩和につながります。
在宅勤務などでは、服装や体勢などに気をつかう必要もなく、のびのびと仕事に励むことができます。また、通勤で満員電車に乗る必要がないのも大きなポイントです。
4. 生産性の向上
毎日の通勤時間がなくなることは、大きな時間的なメリットです。
また、ストレスの少ない状況下で、一人で集中して業務に打ち込める環境を整えられるため、生産性の向上が見込まれます。
5. 感染症リスクの低減
感染症が流行している状況下においては、人との接触を抑制できるテレワークやリモートワークが感染防止のための有効な対抗策となります。
導入のデメリット
一方で、テレワークやリモートワークにはデメリットも存在しています。
会社側の導入デメリット
会社側の導入デメリットとしては、以下のようなものがあります。
- 勤怠管理の困難さ
- 業務管理の困難さ
- セキュリティリスクの増大
- 導入コスト
それぞれについて、詳しく見ていきたいと思います。
1. 勤怠管理の困難さ
テレワークやリモートワークを行っている社員が、実際に勤務時間中に何をしているのかを把握するのは甚だ困難です。しかし、会社として社員の勤務実態を管理しないわけにはいきません。
定期的な報告を課すのか、成果物で判断するのか、パソコン等の操作履歴を監視するのか、いずれにしても何かしらかの勤怠管理の方法を定め、運用しなければなりません。
2. 業務管理の困難さ
勤怠管理とともに問題になるのが業務管理です。業務が順調に進んでいるのか、問題は発生していないのか、問題が発生しているとすれば一人で解決ができるのか、普段であればオフィス内で一声かけ、確認すればよいことが、テレワークやリモートワークでは簡単にはできません。
管理職のマネジメント業務は、チャットツールやビデオ会議システムなどのリアルタイムのコミュニケーション手段がないかぎり遂行すること自体が難しく、あったとしてもオフィス内のようにスムーズに行うことは困難でしょう。
3. セキュリティリスクの増大
会社の外で仕事をするということは、社内の情報を外に持ち出すことに他なりません。
しかし、社員の自宅での業務環境がセキュリティ的に問題がないかの確認をいちいち会社が行うことは現実的ではありません。
業務に必要な最低限の情報しか持ち出さない、不特定多数がいる場所で業務を行わない、業務内容によってはテレワークやリモートワークを認めないなどのルールを決め、遵守させることが必要不可欠となります。(残念ながら、守らない社員は必ず存在します。)
4. 導入コスト
そして、ここまで挙げてきたデメリットを克服するためのルール作りやツールの導入などの各種準備には、多大な人的、金銭的なコストがかかることでしょう。
社員側の導入デメリット
社員側の導入デメリットとしては、以下のようなものがあります。
- コミュニケーションコストの増大
- 生産性の低下
- 家族不和につながるリスク
- 勤務時間増大のリスク
- 能力のなさが露呈するリスク
- 職種によっては導入できない
- 社内システム担当への負担の集中
それぞれについて、詳しく見ていきたいと思います。
1. コミュニケーションコストの増大
人間は、対面でのコミュニケーション時に、無意識下で言葉以外のあらゆる情報を相手から得ています。チャットツールやビデオ会議システムがあったとしても、対面でのコミュニケーション時と比べてしまうと、得られる情報量が減ってしまい、なかなかスムーズにはいかないものです。
また、一声かければ済むオフィス内とは異なり、会話をするのにいちいちツールを立ち上げなければならないテレワークやリモートワークは、面倒な気持ちからついついコミュニケーションをおろそかにしがちです。会議の開催にも、ツールの接続や資料のデータ共有などそれなりの手間が発生します。
結果、認識のそごは発生しやすく、コミュニケーションコストは増大してしまいます。
2. 生産性の低下
社員側の導入メリットのところで、「生産性の向上」を挙げましたが、人によっては逆に低下してしまうことがあります。
上司の監視の目がないとついついさぼってしまうなど、自分で自分を管理するのが苦手な人はいるものです。
また、子どもがいる家庭では、在宅勤務時に子どもが仕事の邪魔になってしまうケースもあります。
3. 家族不和につながるリスク
例えば、妻が専業主婦や在宅ワークの家庭で、夫が在宅勤務になった場合、妻にとっては普段いない時間帯に夫が家にいる状態が発生します。
人間にとって、自分の生活ペースが崩されたり、自分だけの時間を奪われることは大きなストレスになります。
在宅勤務をしている人がいるということは、音楽をかけたり、テレビを見たりなどの音が出る行為にも気をつかう必要が出てきます。
また、在宅勤務をしている方も、仕事のストレスにさらされており、なにげなく話しかけてきた家族に対して粗暴な対応をしてしまうなど、いつもと違う顔を見せてしまいがちです。
双方にストレスがかかる状態で顔を合わせることになる在宅勤務は、家族不和につながるリスクをはらんでいます。
4. 勤務時間増大のリスク
在宅勤務時に、オフィスのように明確な始業時間と終業時間が決まっていないことにより、メリハリをつけにくく、働きすぎてしまうことがあります。
きちんと自分で自分の業務時間を管理する必要があります。
5. 能力のなさが露呈するリスク
テレワークやリモートワークは、仕事をしている様子を見てもらえないため、自然と成果物の内容に目が向きます。
普段、なんとなく仕事をやっている感を醸し出し、雰囲気だけで仕事がデキる感じを演出している人たちにとっては、その本当の実力が露呈してしまうリスクをはらんでいます。
テレワークやリモートワークでは、他人の成果を自分のもののようにアピールすることも難しくなります。本当に実力のある人間にとっては良いことなのですが、一部の人間にとってはつらい状況となるでしょう。
詳しくは、以下の記事をご参照ください。
6. 職種によっては導入できない
テレワークやリモートワークは、職種によってはどうしても導入できないことがあります。
個人情報などのセキュリティ上、会社でしか閲覧できない機密情報を取り扱う職種や、ペーパーレス化ができない業務が存在する職種、対面での対応が必要な職種など、様々な職種が該当します。
そのような事情を無視して、会社側からテレワークやリモートワークの体制を構築するように指示が下され、現場が困ってしまうケースも存在しています。
会社側が、業務内容や部署による条件の違いを理解し、現実的な運用を可能とする切り分け、整理を行う必要があります。
7. 社内システム担当への負担の集中
テレワークやリモートワークには、外部から社内環境へアクセスするためのツールやチャットツール、ビデオ会議システムなど、様々なシステムが必要となります。
それらのシステムの使い方がわからない、うまく動かないなどの問い合わせが、社内システムの担当部署に押し寄せてしまい、問い合わせ窓口が機能不全に陥るのは、テレワークやリモートワーク導入時によくあるトラブルです。
テレワークやリモートワークを行う社員には、最低限のことは自分で解決できるITリテラシーが必要となります。
まとめ:導入のメリットとデメリット
ここまで、テレワークやリモートワークの導入のメリットとデメリットを見てきましたが、多くの会社の判断としては、そのメリットを見過ごすことができないため、デメリットを解消するための方策を検討しつつ、導入へと舵を切るのが一般的です。
テレワークやリモートワークのデメリットは、事前の準備と導入の仕方次第でその多くが解決可能です。社員の働き方の多様性確保のために、導入することをお勧めします。
テレワークに必要な費用は誰が負担すべきなのか
テレワークやリモートワークを行うためには、新たに様々なコストが発生します。
特に、在宅勤務の場合は、自宅の水道光熱費から、通信費、文房具などの備品購入費まで、多様な出費がともなうことになります。
業務の遂行に必要となるこれらの費用は、社員個人が負担しなければならないのでしょうか。
結論から言うと、法律上は、就業規則に特段の記載がないかぎり、原則として会社側が負担するべきとなっています。
労働基準法の第89条第5項により、業務遂行に必要な費用を会社が社員に負担させる場合は、就業規則にその旨を記載しなければならないことになっているのです。
テレワークやリモートワークを行う方は、まず自社の就業規則を確認してみることをおすすめします。
なお、会社側が費用を負担する場合であっても、私的利用分との切り分けが難しい水道光熱費や通信費などに関しては、正確な金額を割り出すのではなく、一定の金額を支払う取り決めとしているケースが多く見られます。
テレワークとリモートワークの使い方、例文
最後に、「テレワーク」と「リモートワーク」の使い方、例文をご紹介します。