ホロライブのカバー株式会社に見る新興企業が大企業になる条件

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今、飛ぶ鳥を落とす勢いの新興企業があったとしても、その勢いがいつまでも続くとは限りません。さらに、長期的に発展し続け、誰もが知る大企業へとなれる新興企業は、ほんの一握りだと言えるでしょう。

それでは、いったいどのような企業であれば、新興企業から歴史ある大企業へと発展していくことができるのでしょうか。

今回は、2023年12月現在、筆者が最も勢いがある新興企業だと考えているカバー株式会社を例にとり、新興企業が大企業になるために必要な条件を見ていきたいと思います。

目次

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カバー株式会社とは

カバー株式会社とは、Vtuber事務所であるホロライブプロダクション(以降、ホロライブ)を運営している会社です。最先端のエンターテイメントを最先端のテクノロジーで提供している企業だと言えるでしょう。

Vtuberとは、2Dまたは3Dのアニメチックなアバターを用いて、YouYubeなどの動画配信サービス上で、ライブ配信を含む動画配信を行うストリーマーを意味します。中でもホロライブに所属するVtuberは、がうるぐらさんや宝鐘マリンさん、兎田ぺこらさん、森カリオペさん、白上フブキさんを筆頭に、複数のタレントがYouTube上でのチャンネル登録者数が200万人を超えるなど、多くのファンを獲得しています。

会社としては、2023年3月に東京証券取引所グロース市場への上場を果たし、その後も順調に収益を伸ばしていっています。

最近では、宝鐘マリンさんがVtuberとして初めてフジテレビ系の音楽特番「FNS歌謡祭2023」に出演するなど、一般層に対する知名度も獲得してきており、兎田ぺこらさんによる株式会社湖池屋とのコラボ企画を始めとして、ナショナルクライアントとのタイアップもめずらしいことではなくなりました。

カバー株式会社が大企業になるために必要なこと

そのような飛ぶ鳥を落とす勢いのカバー株式会社ですが、これからも長期的に発展し続け、誰もが知る大企業となるには、さらに何が必要となるのでしょうか。

この記事では、その条件として、以下の3点を挙げさせていただいています。

  1. 他社へ依存したビジネスモデルの脱却
  2. マスメディアの活用と対策
  3. 所属タレントの価値観の再アップデート

それぞれについて、詳しく見ていきましょう。

1. 他社へ依存したビジネスモデルの脱却

カバー株式会社の収益の根幹を支えるホロライブの事業は、YouTubeに大きく依存したものとなっています。

会社全体の収益に占める、YouTubeにおける所属Vtuberのライブ配信や動画コンテンツによる直接的な収益の割合は、大きいものではありません。しかし、その他の大きな収益源である各Vtuberのキャラクター商品の収益、ライブ・イベントの収益、各種タイアップの収益は、YouTube上の所属Vtuberたちのライブ配信や動画コンテンツの人気があってこそ生まれるものです。その点において、カバー株式会社のビジネスモデルは、YouTubeという他社のプラットフォームに完全に依存している状態だと言えるでしょう。

他社のプラットフォームに依存したビジネスモデルの問題点として、将来に対する不確実性が挙げられます。

ある日突然、YouTubeがサービス提供を終了してしまったら、ホロライブは今の成長を維持することができるのでしょうか。代替となるプラットフォームを見つけ、事業を安定させるまで、マイナス成長となることさえ考えられます。

YouTubeがサービス提供を終了するはずがないと考えるのは、経営者としては甘い考えだと言えます。Web上のコミュニケーション手段としてインフラ化していたと言っても過言ではないTwitter(現:X)でさえ、イーロン・マスク氏による買収後、そのサービス提供の継続は余談を許さない状態となっています。また、YouTubeの運営会社であるGoogleは、自社のサービスの終了に関しては、ときにドラスティックな経営判断を行うことで有名です。

YAGOO氏はプラットフォーマーを目指しているはず

そのような不確実性から脱却するには、自らがプラットフォーマーとなる必要があります。自ら所属Vtuberのライブ配信や動画コンテンツをユーザーに届ける環境(プラットフォーム)を構築することで、そのビジネスモデルは安定した持続性を得るでしょう。

カバー株式会社の代表取締役社長CEOである谷郷元昭氏(通称:YAGOO)も、元々自社がプラットフォーマーとなり、所属Vtuberのライブ配信や動画コンテンツを展開していく構想を描いていたが、事業の立ち上げ時の対応として、すでに利用者の多いYouTubeなどのサービスを活用することにした旨をインタビューで語っており、今後、自社でのプラットフォームの構築を進めていくことでしょう。

ホロアースは必要な一手

カバー株式会社は、「ホロアース」というメタバース構想を描いており、すでに多くの費用を投じています。

メタバースは、Meta社(旧:Facebook社)が巨額を投じていながら、お世辞にも成功しているとは言えない状況もあり、カバー株式会社の一部の株主もメタバース事業となるホロアースに懸念を抱いている様子が株主総会でのやりとりに見受けられます。しかし、ホロアースは、カバー株式会社がプラットフォーマーとなるために必要な一手だと言えるでしょう。

ホロアースという電脳空間において、所属Vtuberのライブ配信や動画コンテンツをプラットフォーマーとしてユーザーに提供できるようにした上で、ユーザー同士のコミュニティの場を設け、デジタルコンテンツの購入まで行えるようにすることで、カバー株式会社はさらなる発展を見せることでしょう。

2. マスメディアの活用と対策

Vtuberというエンターテイメントの形は、以前に比べれば一般層にも知られるようになってきたとは言え、まだまだ一部の限られた人の趣味だと言えます。

Web上の書き込みを見ていると、Vtuberというだけで拒否反応を示す人もいるようです。新しいものだと言うだけで人は忌避感を抱きがちです。宝鐘マリンさんの「FNS歌謡祭2023」出演も、世間にはまだめずらしいものを見る目で見られてしまうことでしょう。

一般層への認知拡大施策の必要性

カバー株式会社が持続的に成長し、大企業となっていくためには、Vtuberが一部の限られた人の娯楽の枠を超えて、世間一般に幅広く受け入れられ、世の中に当たり前に存在するエンターテイメントの形の一つとして認知される必要があります。

そのための施策として一般的なものが、テレビCMなどのマスメディアの活用になります。

テレビCMに関しては、多くの費用がかかる上に、効果がわかりにくいという評価も下されがちではありますが、継続的に出稿し続けることで、それが世の中に当たり前に存在しているものだと消費者に受け入れさせ、拒否反応を軽減する効果が期待できます。テレビCMは、一般層への認知の拡大という点では、有力な選択肢の一つとなるでしょう。

スキャンダルの事前対応の必要性

一般層への認知拡大施策とともに考えておかなければならないのが、スキャンダルの事前対応です。

Vtuberのスキャンダルに関しては、声優のスキャンダルと同じ道筋をたどることが想定されます。

かつて、週刊誌が追う有名人のスキャンダルは、芸能人がターゲットでした。しかし、声優の一般層における認知度が上がり、世間の声優たちに対する関心が増し、その情報が週刊誌の売上げやWeb記事の閲覧につながるようになると、声優もまたスキャンダル報道のターゲットとなっていきました。

Vtuberも声優と同様に、一般層における認知度が上がっていく過程で、週刊誌によるスキャンダル報道のターゲットとなっていくことでしょう。

声優は、不倫などのスキャンダルだけではなく、結婚していたことや子どもがいたことなど、悪いことをしたわけでもないのにその私生活を記事にされてきました。これは、Vtuberが同様の報道にさらされることを予見させるものです。

カバー株式会社は、所属するVtuberに対して、普段から倫理的に問題のある行動をとらないように周知した上で、さらに理不尽な私生活の暴露が行われる危険性の周知や、報道がなされた際にあわてず対応する旨の周知を今のうちから行っておく必要があると言えるでしょう。

3. 所属タレントの価値観の再アップデート

会社が大きくなっていくと、全国的な知名度を持つナショナルクライアントと呼ばれる大企業との取引も増えていくことになります。カバー株式会社においても、ホロライブの兎田ぺこらさんが株式会社湖池屋とのタイアップを行うなど、すでに複数のナショナルクライアントとの関係が見受けられます。

しかし、ナショナルクライアントは自社のブランドイメージを何より大切にしているため、タイアップなどを行う際には一層の注意が必要となります。

アンコンシャスバイアスへの対応の必要性

ホロライブにおいては、YouTubeの規約改正や会社の東京証券取引所グロース市場への上場への対応として、徐々に配信をする上で行ってはいけないの表現のラインを見直してきたように見受けられます。その内容は、露骨な性的表現や言動を控えるといったものが主でした。

もちろん、世間に顔向けできる企業となるために、そのような部分に目を向け、注意していくことは重要ですが、ナショナルクライアントがタイアップ相手の会社に求めているものは他にも存在しています。それがアンコンシャスバイアスへの対応です。

アンコンシャスバイアスとは、「無意識の偏見」を意味する言葉で、性別や年齢、学歴、結婚歴、子どもの有無、人種、国籍、宗教などの属性で他人を一方的に決めつけ、多様性の阻害につながるとされているものです。多様性を大切にすることを標榜しているナショナルクライアントにとっては神経質にならざるをえない考え方となっています。

アンコンシャスバイアスについて、詳しくは以下の記事をご参照ください。

無自覚なハラスメントで失敗する人達 - アンコンシャスバイアスとは
あからさまなハラスメントが減ってきた現在、問題となっているのは、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)が元となった自覚なきハラスメントです。今回は、自覚なきハラスメントの具体例と、加害者にならないための対処法についてご紹介します。

この点において、ホロライブはまだ危うい部分が残っていると言わざるをえません。

例えば、兎田ぺこらさんはライブ配信の中で、「(報酬として)女はいねぇのか」や「女は抱け」など、女性の性の一方的な搾取を肯定するような発言をたびたび行っています。大半を占める男性視聴者へのリップサービスだと推測されますが、ナショナルクライアントが忌避する表現を日常的に行っていると言えるでしょう。

現在は、そのような発言が槍玉に上がり、タイアップが打ち切られるといったようなことは起こっていませんが、Vtuberの知名度が一般化し、週刊誌がその動向に目を光らせるようになった際には、過去の発言であっても切り抜かれて、センセーショナルに報道されることは十分にありえます。

大々的に報じられてしまっては、ナショナルクライアントもその後の取引を見直さざるをえなくなるでしょう。今のうちから、ナショナルクライアントの目線に立った価値観のアップデートを行うことが求められます。

カバー株式会社が大企業になるために必要なことについて、ここまで3点お伝えしてきましたが、海外展開など他にも様々な要因により、会社は発展していきます。ここで挙げられた内容は一つの参考として受け止めていただき、今後の経営に活かしていただければ幸いです。