ガバナンスとは、英語の「governance」という単語をそのまま用いたカタカナ語で、統治や支配、管理を意味します。企業のガバナンスといった場合には、コーポレートガバナンスとも呼ばれ、健全な企業経営を目指すための企業自身の管理体制という意味になります。
このガバナンスという言葉は、企業不祥事が相次いだ2000年頃からよく使われるようになり、その後、ビジネスパーソンであれば知っていて当然の概念となりました。
ここでは、その目的や類似する用語との違いについてご紹介します。
ガバナンスの目的
企業におけるガバナンスであるコーポレートガバナンスの目的は、企業経営が健全に行われるようにするために、企業自身の管理体制をきちんと整えるというものです。
日本では2000年前後に様々な企業不祥事が発生し、その多くは、企業の経営者が自社の業績を良く見せるために粉飾決算を行ったり、株主総会をスムーズに執り行うために社外の総会屋と結託するといった事例でした。
そのような状況を放置していたのでは、その企業だけでなく日本の資本市場そのものの信頼性も失われるということで、21世紀に入ってからガバナンスの重要性が声高に叫ばれるようになったのです。
それまで多くの日本企業では、取締役が自ら経営の執行にあたるという体制が主流だったのですが、一連のガバナンスの強化の流れを受けて、欧米式の経営の監督と執行を分離する企業統治の仕組みが導入されるようになりました。
例えば、指名委員会等設置会社や監査等委員会設置会社といったものがそれに該当します。
また、外部の目を入れて経営をしっかりとチェックするために、社外取締役の利用も進められています。社外取締役が目を光らせていれば、企業の経営者が不正を隠そうとしても、無茶なことはできなくなるはずだからです。
コンプライアンスとガバナンスの違い
ガバナンスと似た言葉にコンプライアンスがあります。両者はたびたび混同されるケースがありますが、似て非なる概念ですので、しっかりと違いを理解しておく必要があります。
コンプライアンスというのは、「順守する」という意味を有するcomplyの名詞形であるcomplianceがそのまま日本語になったものです。そのため、その意味するところは、法令やルールなどを守るというものです。
コンプライアンスは、「法令順守」と言い換えられるケースが多いのですが、順守すべき対象は、必ずしも法令だけに留まらないという点に注意しなければなりません。業界のルールや企業理念、社会的責任なども対象に含まれますので、コンプライアンスといった場合には、法令だけ見ていれば良いというわけではないのです。
一方、ガバナンスは、このコンプライアンスを維持、改善するための管理体制を意味します。コンプライアンスを強化するためには、ガバナンスを整備する必要がありますので、両者は目的と手段の関係にあると言ってもよいでしょう。
コンプライアンスの詳しい説明は、以下の記事でご紹介しています。
リスクマネジメントとガバナンスの違い
リスクマネジメントも、ガバナンスと混同されやすい用語の一つです。リスクというのは、将来の不確実性を意味する言葉ですので、リスクマネジメントとは、経営における不確実性を事前に把握した上で、適切に対応できるようにするということを意味します。
経済のグローバル化に伴って、経営を取り巻くリスクは益々多様化して行っているため、リスクマネジメントを適切に行っていないと、予期せぬリスクに見舞われた際に、大きな損失を被ってしまう恐れがあるのです。そのため、リスクマネジメントは、ガバナンスにおける重要な要素の一つであるということができるでしょう。
ただし、リスクマネジメントとガバナンスが完全にイコールというわけではありません。ガバナンスには、単に将来の不確実性を管理するというだけではなく、株主や社員、顧客といった企業を取り巻く様々なステークホルダーの利益を調整するといった機能も求められているからです。例えば、ガバナンス上、取締役が利益相反取引を行う場合には取締役会における承認が必要とされていますが、これはリスクマネジメントの仕組みとは言えません。
ガバメントとガバナンスの違い
ガバナンスとガバメントは、いずれも「統治する」という意味を有するgovernという英語の動詞が語源となっていますが、ガバナンスは前述の通り企業の統治に関する概念である一方、ガバメントは政治や政府を指して用いられる言葉であり、両者の意味は全く異なっています。ガバメントは国や自治体などの公的な機関を表すものであるのに対し、ガバナンスは組織の統治体制を表すものであると言い換えることもできるので、そのように覚えておくのでもよいでしょう。
なお、ときどきガバメントは公的な組織、ガバナンスは民間の組織に関して用いられる言葉であると理解している人がいますが。この理解は必ずしも正確ではありません。というのも、政府などの公的な組織においても、ガバナンスという言葉が用いられるケースが少なくないからです。ガバナンスは決して民間だけの概念ではないという点も併せて理解しておくようにしましょう。