課長や部長などの管理職は、一般の社員と何が違うのでしょうか。
なんとなくイメージはできても、仕事内容は具体的にどう変わるのか、どのようなスキルや知識が必要になるのか、リスクは存在するのかなど、わからないことも多いかと思います。
そこで今回は、管理職になる前に知っておきたい、管理職で失敗しないための注意点をご紹介します。
目次
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従業員側から経営側へ
なぜうちの会社はこうなのか、どうして上司は組織を改善しないのか、社員同士で会社や上司の愚痴を言い合う、よく見られる光景だと思います。
管理職になると、愚痴を言う側から、言われる側へと立場が変わります。それは、役割の変化によるものです。管理職になるまでは、上司から指示された範囲内で自分の仕事を全うするのが役割でしたが、管理職になった後は、会社の経営側の視点での組織作り、組織の改善も役割として追加されます。
会社が悪い状態なのは、管理職が十分に役割を全うできていないからだと言えます。
管理職が会社の愚痴を部下の前で話すということは、「自分は仕事を全うできていません。しかも、それが自分の責任だとも思っていません」と告白しているようなものです。どうしても愚痴が言いたいときは、問題解決のための建設的な話し合いとして受け取られるように、体裁を整えてから話すように心がけましょう。
中間管理職の板ばさみ
従業員側から経営側へ移ることにより、その両者の板ばさみに会うことがあります。
従業員側の希望要望と経営側の希望要望は、どちらが正しいと言い切れないものも多く、視点が異なるだけで、それぞれの立場においては正しいものばかりです。
中間管理職の役割は、どちらか一方の意見をもう片方に押し付けるのではなく、両者の主張を真摯に聞き、落としどころを見つけ出すことにあります。
経営側からの希望要望を、命令だから指示だからと部下に下ろしているだけでは、とても役割を果たせているとは言えません。経営側の意見を変えるのが難しければ、せめて部下に対しては、必死に調整しようと戦った経緯だけでも伝え、自分のチームの一体感だけは損なわれないように気をつけましょう。
最低限の法律知識が必要に
仕事は、様々な法律の制限の中で行われています。それは、消費者に商品を販売するときのルールや、宣伝広告を行う際の文言のルール、そして、労働時間に関するルールなど、多岐に渡ります。
管理職になるまでは、既存の社内ルールや上司の指示どおりに業務を進めているだけで、意識せずとも概ね法律を守って過ごすことができました。しかし、管理職になると、部下やチームの仕事の進め方が法律的に問題ないのか等の判断を、自分の責任において下さなければなりません。
もし、誤った判断を下し、法律に違反するような指示を出した場合は、自分自身が会社による処分に留まらず、警察に逮捕される可能性も否定できません。
自分の身を守るためにも、自身の業務に関わりのある法律については、最低限の知識を身につけておく必要があります。
労働時間や残業時間を規定する労働基準法
業務内容に関わらず、管理職全員が関係することになるのが、労働時間や残業時間について規定している労働基準法です。
労働者の命と健康を守るために、労働時間や残業時間については、上限時間など、様々なことが法律で定められています。そして、それを部下に守らせるのが管理職の役割となります。
部下が自ら進んで法律の限度を超えた労働を行った際も、管理者は責任を問われることに気をつけましょう。誰の意思であろうと法律違反は法律違反です。
具体的な内容については、以下の厚生労働省の「労働基準法に関するQ&A」が参考になるでしょう。
一部を抜粋してご紹介します。(2019年4月20日時点)
質問
勤務時間の上限は法律で決まっていますか。
回答
原則は労働基準法第32条で1週間40時間、1日8時間と決まっています。また、一定の条件を満たした場合には1ヶ月を平均して1週40時間にする制度(1ヶ月単位の変形労働制)や1年の労働時間を平均して1週40時間にする制度(1年単位の変形労働制)があり、これを超える労働を法定時間外労働と言い、いわゆる残業ということになります。
質問
一日の残業時間は労働基準法ではどれぐらいですか。
回答
労働者に時間外・休日労働をさせる場合には、事業場の過半数の労働者で組織している労働組合(無い場合は労働者の過半数代表)と36協定を締結する必要があります。また、36協定は労働基準監督署に届け出なければなりません。36協定を締結したからと言って、無制限に残業させられるわけではありません。残業時間には「時間外労働の限度に関する基準」が定められており、この基準により例えば1か月45時間、1年360時間などの限度が示されています。
法律だけではなく、自社の36協定についても、今一度確認しておきましょう。
なお、労働基準法は、有給休暇についても規定しており、厚生労働省は会社側に以下のように留意するよう促しています。
- 年次有給休暇の利用目的によって、その取得を制限することはできません。
- 労働者から年次有給休暇の請求があった場合には、原則としてこれを拒めません。ただし、事業の正常な運営を妨げる場合には、これを他の時期に変更することができます。
- 年次有給休暇の買い上げの予約をし、これに基づいて休暇の日数を減じたり、請求された日数を与えないことは法違反となるのでできません。
- 使用者は、労働者が年次有給休暇を取得したことによって、労働者に対し賃金の減額その他の不利益な取り扱いをしないようにしなければなりません。(労基法附則136)
部下からの有給休暇の申請については、会社側として拒否する権利はありません。業務の進行に支障が出そうな場合は、調整の上、日付を変更できないかお願いをしましょう。また、有給休暇取得の理由を聞いてはいけません。理由を問わず、権利として取得してもらわなければなりません。
残業代が出ない管理監督者
部下だけではなく、管理職自身についての法律的立場についても知っておく必要があります。会社によっては、管理職になった時点で、法律上の管理監督者扱いとし、残業代の支給がなくなることがあるのです。
労働基準法41条2号に規定される管理監督者は、厚生労働省によると、以下の3点が判断基準とされています。
- 当該者の地位、職務内容、責任と権限からみて、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあること。
- 勤務態様、特に自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること。
- 一般の従業員に比してその地位と権限にふさわしい賃金(基本給、手当、賞与)上の処遇を与えられていること。
管理職になったばかりの課長などは、経営者と一体的に立場にはなく、労働時間について実質的な裁量権もなく、賃金も十分とは言えない人も多いのではないでしょうか。
会社側は、残業代を節約するために、法的には管理監督者と認められない管理職を管理監督者として扱っています。実際に裁判が行われ、会社側に残業代の支払いを命じる判決も出ており、多くの名ばかり管理職は、訴えれば勝てる可能性があります。しかし、実際に訴える人はほとんどいません。我々は、このような法的に疑問が残る現実を甘んじて受け入れる必要はあるにせよ、いざというときのために、実際の法律上の規定、自らが置かれている状態はきちんと認識しておく必要があるでしょう。
管理職で増える仕事
管理職になると、マネジメント業務を中心として、以下のような様々な仕事が増えます。
部下の出退勤管理
前述のとおり、部下が法律や36協定の範囲内で勤務しているか管理する必要があります。
業務の進行を優先するあまり、事実と異なる記録を黙認したり、管理職自ら進んで記録を改ざんする例は後を絶ちません。多くの場合、後々発覚して処分されます。正しく、事実どおりに記録し、そのことで業務が遅滞する場合は、スケジュールの調整や経営陣との人員補充の交渉が管理職の仕事となります。
ただし、経営陣が、不正な出退勤記録を推奨している会社も存在しています。そのような会社の経営は長続きしません。転職をお勧めします。
部下の育成、教育
管理職は、自分のチームに責任を持ちます。チーム各員の成長も評価の対象となり、個々の部下の育成、教育計画を作り、実行していくことになります。
育成、教育計画を作る上で、まず初めに行うべきことは、部下のキャリアプランを聞くことです。部下がこの先、どのような仕事をして、どのような存在になりたいのかを聞き、なるべくそれにそった形で計画を立てるのが望ましいでしょう。
また、キャリアプランがまだ自分の中で固まっていない部下に対しては、これを機にきちんと考えさせてみましょう。目標や将来像を持たせることにより、漫然と仕事を行うよりもパフォーマンスを上げることができます。
キャリアプランの作り方については、以下の記事でご紹介しています。ご参考にしていただければ幸いです。
実際の育成、教育時に大切なことは、「仕事を任せてみる」ということです。自分が行った方が早くて確実な仕事であっても、部下に渡して進めさせてみて、問題が起こらないか陰から見守り、最低限のサポートを行って、部下自身の力で成功まで到達させるのが理想の進め方です。
管理職は、基本的に自分で手を動かさず、指示を出して部下に仕事を進めさせることを目指しましょう。
ポイントをまとめると、以下のようになります。
- 目標を持たせる
- 自分で考えさせる
- 成功体験を重ねさせる
部下の人事評価
部下の人事評価も管理職の仕事です。もし、部下にとって納得感のない評価がなされた場合、その部下のモチベーションが低下し、パフォーマンスに影響が出る懸念があります。
大切なのは、評価対象期間の初めに、部下と目標や評価基準についてしっかりと話し合い、合意形成を行っておくことです。何をどこまでできたら、どのような評価を行うのかを、あらかじめお互いが納得した形で決めておき、評価時期にはその内容に応じて評価を行います。
評価結果はきちんと部下に共有し、よかった部分を褒め、足りなかった部分をどうしたら改善できるのかを一緒に話し合いましょう。評価と指導はセットで行うことに意味があります。
部署間の調整
同じ会社の中といえども、部署ごとに目標や役割は異なっており、ときには利害が衝突することがあります。管理職は、自分が所管する部署の代表者として、他の部署と調整を行う役割を担います。
このとき大切なのは、あらかじめ社内にどのような部署が存在していて、どのような業務を行っているのかを把握しておくことです。そして、可能ならば、各部署の代表者の人となりを知り、交流を持っておくことです。
人間は感情の生き物です。見知った顔かどうかで、協力的か非協力的かも変わってきます。
他部署との敵対は、部下もその部署との仕事が進めにくくなります。個人の好き嫌いではなく、部署を背負っている、部署の顔としてふるまいましょう。
部下との接し方
部下とどのように接してよいのかわからないという管理職の悩みをよく耳にします。
難しいことなどはなく、自分自身が管理職になる前に、部下として上司にどう接してほしかったかを考えればそこに答えはあります。相手の立場に立って、気持ちを想像して行動すればよいのです。
誰しも、自分の立ち場が変わると、昔の自分の気持ちや感情、価値観を忘れてしまいがちです。かつて部下として上司に対して抱いた不満を、自分の部下には与えないように、想像力を働かせて、部下の期待に応えましょう。
ハラスメント注意
管理職は、部下に対して、責任を持つと同時に、評価や指導を通じて権力や影響力を持ちます。
同僚を飲みに誘うのとは異なり、上司が部下を飲みに誘うという行為には、部下からは断りにくいという要素が自然とついて回ります。
部下も大人です。表面上は嫌な顔一つせずに付き合ってくれるでしょう。しかし、本当は嫌がっているのに、それに気づけずに誘い続けてしまった場合、ハラスメントとして通報され、処分の対象になることもあります。
管理職になると、周りの目は厳しくなります。今まで見過ごされていた言動が見過ごされなくなることが多々あります。言動には細心の注意を払って日々を過ごしましょう。特に、部下に対しての性的な冗談は絶対にやめましょう。できることなら、プライベートを詮索するような発言も慎みましょう。
シゴトコは、皆さまの管理職ライフを心より応援しています。