合理性を捨てがちな男性社員 - 女は感情的、男は理性的のウソ

腕組みするビジネスパーソン

「女は〇〇だ、男は〇〇だ」といった性差によるレッテル貼りは、昔からよく行われてきたものです。その中の一つである、「女は感情的、男は理性的」といったレッテル貼りも、いまだに根強く残っているものになります。

昨今は、「女は感情的、男は理性的」と口にする人自体は少なくなってきました。しかし、その少なくなった理由は、事実関係が否定されたからではなく、「そういうことを口にしてはいけない風潮だから」、「性差に言及するとハラスメントになる時代だから」といったように、口にはしていないだけで、心の中では引き続き事実だと考えている人も多いのが実情です。

そこで今回は、「女は感情的、男は理性的」の事実関係や、人がなぜ間違った情報を事実だと誤認してしまうのか、むしろ男性社員の方が合理性を捨てがちな瞬間などについて、ご紹介できればと思います。

目次

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男女の性差は社会的・文化的なもの

一時期よく言われていた、女性脳と男性脳といった生物的な脳の性差については、MRIを用いた最新の研究で否定されています。

家庭内でちょっとしたことですぐにヘソを曲げて不機嫌になる男性や、職場でちょっとしたことですぐにカッとなって部下を叱責する男性がいる一方で、温和で常に柔らかな態度を崩さない男性もいます。女性の場合も同様です。

女性や男性といった性別のくくりで、個々人の性質を決めつけることが不自然なのは、周りの人たちを少し見ればおわかりになるかと思います。男女の性差よりも、それぞれの個性によって、性格は決まるものです。

しかし、男女で性差が出るものもあります。例えば、東洋経済新報社による『役員四季報』によると、2022年7月末時点の日本の上場企業の役員に占める男性の割合は90.9%となっており、女性はたったの9.1%です。また、法務省が公開している『令和4年版 犯罪白書』によると、日本の刑法犯はその77.6%を男性が占めており、明らかに性差が出ています。

これらの性差は、決して男性が理性的だから会社役員に向いているわけでも、感情的だから犯罪に手を染めがちなわけでもありません。

会社役員に男性が多いのは、仕事は男性がするもの、女性は家庭を守るものという旧態依然とした価値観のなごりという社会的な背景があり、刑法犯に男性が多いのは、強さや力を重視し、どんな場面でも負けることは恥だとする古い男性的な価値観のなごりという文化的な背景があります。

男女の性差は、そのほとんどが社会的、文化的な背景をもとにした後天的なものであり、むしろ「女は〇〇だ、男は〇〇だ」というレッテル貼りによって形作られてきたものだと言えるでしょう。

人はなぜ間違った情報を信じるのか

それでは、なぜ「女性は感情的だ」などという根拠の乏しい主張を信じる人が後をたたないのでしょうか。

それを理解するには、「確証バイアス」という人間の性質について知る必要があります。

確証バイアスとは、「自分が見たいものだけを見て、信じたいものだけを信じる」という多くの人が共通して持つ傾向を意味する言葉です。

例えば、新型コロナウイルス感染症のワクチンについて、世間では有効性を訴える人と、危険性を訴える人の二派が存在しています。

もし、ワクチンの有効性、危険性について、正しく検証するのであれば、有効性を訴える論拠と危険性を訴える論拠を分け隔てなく集め、比較し、どちらがより信頼できるのかを検証する手順が必要となります。

しかし、ワクチンの危険性を訴える人が確証バイアスに陥ってしまうと、ワクチンの有効性を示す論拠には目もくれず、ワクチンは危険だという自身の主張を補強するための論拠ばかりを事実確認も行わずに収集するなど、自分が信じたいことを信じるためだけに邁進してしまいます。

「女性は感情的だ」と主張し続ける人も同様に、女性の理性的な言動を見ても無意識のうちに記憶から除外し、たまたま見かけた女性の感情的な一面だけに注目をして、「女性は感情的だ」という証拠を見つけたと大喜びをしてしまう確証バイアスに囚われています。

そのような人は、多くの場合、「男性は女性よりも優位であるべき」という観念に囚われており、女性のマイナスポイント探しと女性蔑視のレッテル貼りに余念がないので注意が必要です。

アンガーマネジメントができない男たち

逆に、職場では、男性社員が感情をコントロールできなくなっている場面をよく目にします。

それは、強さや力を誇示するために、部下を叱責する場面であったり、他部署に出し抜かれ、恥をかかされたと怒りに震える場面だったりします。

部下への叱責に関しては、理性的な対応ができないことにより、パワハラを指摘されることでしょう。他部署との争いに関しては、理性的な対応ができないことにより、報復として隙あらば他部署に不利益を与えようとして会社全体の利益を損ねることでしょう。

当然、女性も同様の行動をとる可能性はありますが、男性の方が、強さや力を重視し、どんな場面でも負けることは恥だとする文化的な背景や、会社組織の中で出世争いをすることの多い社会的な背景から、よりそのような感情的で合理性を捨てた行動をとる可能性は高いと言えます。

パワハラにならない正しい部下や後輩の叱り方につきましては、以下の記事で詳しくご紹介しています。ご参照いただければ幸いです。

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合理的判断を捨て、組織を破滅させる男たち

また、男性社員が合理性を捨てがちな場面として、経営陣など会社の上層部との会議が挙げられます。

前述のとおり、日本の経営陣はそのほとんどが男性であり、かつ、文化的な背景から人前で恥をかかされること、否定されることには敏感です。

しかし、経営陣も完璧ではありません。むしろ、現場から離れて久しく、判断を間違えることが多い人たちです。間違いがあれば会議の参加者が指摘しなければなりません。

ところが、会社組織の中で出世することを求められがちな男性社員は、経営陣の怒りを買いたくないという恐怖の感情から、会社のために経営陣の間違いを指摘するという合理的な判断を放棄しがちです。

むしろ、そのようにして出来上がった経営陣の言うことには異を唱えないという暗黙のルールを知らずに普通に異を唱えた女性社員を、「わかってないなぁ…」、「空気読めてないなぁ…」と冷笑する始末です。

そして、経営陣が会社の方針の重要な判断を誤ったまま、組織は破滅への道を進んでいくことになります。

自分を客観的に見るのは、とても難しいことです。それでも、自身の自尊心のためだけに、他者を貶めるレッテルを貼る努力をするくらいなら、自身のことを省みる努力をした方が、何倍も有益だと言えるのではないでしょうか。

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