『鬼滅の刃』は、吾峠呼世晴(ごとうげこよはる)氏により『週刊少年ジャンプ』上で2016年2月から2020年5月まで連載され、2020年12月にはそのアニメ映画が日本における映画の歴代興行収入1位の記録をぬりかえるなど、社会現象にもなった超人気マンガです。
作品を未読の方は、以下をご参照いただき、ご興味のある方はぜひお読みください。
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家族を鬼に殺された竈門炭治郎(かまどたんじろう)氏とその仲間たちが、人々が安心して暮らせる世界を手にするために、傷つきながらも鬼と戦い続ける心が熱くなる名作です。
鬼舞辻󠄀無惨(きぶつじむざん)氏は、その『鬼滅の刃』の敵である鬼の親玉であり、最終的に主人公たちに倒されることになるラスボスです。
今回は、そんな鬼舞辻󠄀無惨氏が第51話から第52話にかけて繰り広げた、部下の鬼たちに対するパワーハラスメント会議について、現実の会社でも起こりうる事象として、参加者が生き残るためにどうすべきだったかを考えていきたいと思います。
鬼舞辻󠄀無惨氏のプロフィール
鬼舞辻󠄀無惨氏は、平安時代に人間の子どもとして生まれ、病弱な体の治療の過程で鬼となり、作品の舞台である大正時代まで1,000年以上を生き続けている生物です。
姿かたちは、年齢、性別を問わず自由に変えられるようですが、作中では二十代半ばから後半の男性の姿でいることが多く、それが人間だった頃の鬼舞辻󠄀無惨氏の姿に近いことが過去回想シーンからも推測されます。瞳は紅梅色で、瞳孔が猫のように縦長なのが特徴です。
性格は、鬼になる前から激情型であったことがうかがえ、鬼になってからはその既存の生物からかけ離れた不死性と圧倒的な力により、さらに自己中心的で冷酷な人物になっていったと考えられます。
一方で、生への執着がとてつもなく強く、自分の命を守るためであるなら、プライドを捨ててでも逃亡し、脅威が去るまで身を隠し続ける臆病さを持ち合わせています。
嫌いなものは「変化」、目標は「永遠」であり、「不滅」です。
日の光を浴び続けると死にます。
鬼舞辻󠄀無惨氏の組織運営
鬼舞辻󠄀無惨氏は、自らの血を人間に分け与えることで人間を鬼へを変化させ、部下の鬼を増やしていきます。
そうして採用された部下の鬼のうち、実力と素質を認められた上位12名の鬼のみが役職を与えられます。
12名のうちの、実力上位の6名が「上弦の鬼(じょうげんのおに)」の役職と人事の推薦権を、下位の6名が「下弦の鬼(かげんのおに)」の役職となります。
上弦の鬼と下弦の鬼の中でも、さらに実力順に一人ひとり番号が割り当てられており、上から順番に、「上弦の壱」、「上弦の弐」、「上弦の参」、「上弦の肆」、「上弦の伍」、「上弦の陸」、「下弦の壱」、「下弦の弐」、「下弦の参」、「下弦の肆」、「下弦の伍」、「下弦の陸」という役職名が与えられます。下位の者から上位の者に対して、「入れ替わりの血戦」を挑むことができ、その昇進試験に打ち勝つことで出世することが可能な人事制度となっています。
露骨なまでの明確な順位づけを行うことで競争意識を高め、組織全体の人材の質の向上を目指している様子がうかがえます。
また、鬼舞辻󠄀無惨氏は、部下の鬼たちの物理的な生殺与奪を握っており、反逆は絶対に許さない完全なワンマン経営を行っています。
かつて鬼舞辻󠄀無惨氏に近しかった珠世氏によると、部下の鬼たちが徒党を組んで反逆してこないように、原則的に鬼たちは単独で行動するようにマネジメントされているようです。
なお、経営目標は、1,000年間変わらず、以下のとおりです。
- 青い彼岸花を見つけ出す
- 日の光を克服する人(鬼)材を発掘する
どちらも、自分自身が日の光を克服するための手段として、達成を目指しています。
上記をKGIとするならば、部下に与えられているKPIは以下のとおりです。
- 人間をたくさん食べて強くなる
- 敵対する鬼殺隊と産屋敷一族を葬る
作中では、事業が思いどおりに進まず、いらだちをつのらせている様子が見受けられます。
KGIとKPIの言葉の詳しい説明は以下の記事をご参照ください。
下弦の鬼に対するパワハラ会議の流れ
そんな鬼舞辻󠄀無惨氏のパワハラ経営者っぷりを世に知らしめたのが、作中の第51話と第52話で繰り広げられた下弦の鬼たちに対する通称パワハラ会議です。
当時、鬼舞辻󠄀無惨氏は、お気に入りの部下である下弦の伍・累(るい)氏を鬼殺隊の手により失い、いらだっていました。
そこで急遽、下弦の鬼たちを招集して行われたのが、「何故に下弦の鬼はそれ程まで弱いのか」会議です。
通称パワハラ会議と呼ばれる、当該会議の流れは以下のとおりとなります。
- 故・累氏を除く下弦の鬼5名が事前通告なしで本社(無限城)に出頭させられます
- 下弦の鬼5名が鬼舞辻󠄀無惨氏に頭を垂れて蹲い平伏させられます
- 下弦の肆・零余子(むかご)氏が勝手に発言して鬼舞辻󠄀無惨氏に怒られます
- 鬼舞辻󠄀無惨氏から議題「何故に下弦の鬼はそれ程まで弱いのか」が発表されます
- 下弦の陸・釜鵺(かまぬえ)氏が「そんなことを俺たちに言われても……」と心の中で思い、思考を読んだ鬼舞辻󠄀無惨氏に処分されます
- 下弦の肆・零余子氏が鬼舞辻󠄀無惨氏に弱気な心の内を指摘されるも否定し、鬼舞辻󠄀無惨氏の発言を否定した罪で処分されます
- 下弦の参・病葉(わくらば)氏がその場から逃げ出して処分されます
- 下弦の弐・轆轤(ろくろ)氏が強くなるために鬼舞辻󠄀無惨氏の血がほしいと述べ、鬼舞辻󠄀無惨氏に指図した罪で処分されます
- 下弦の壱・魘夢(えんむ)氏が会議が楽しかった旨と直接処分してもらえる旨の礼を述べ、鬼舞辻󠄀無惨氏に臨時ボーナスの血を与えられ生還します
参加5名中4名が物理的に処分される凄惨な会議となりました。
現実の会社にもあるパワハラ会議
現実の会社においては、物理的に処分されることはめったにないにしても、これに近いパワハラ会議は毎日どこかしらかの会議室で行われています。
特に、当該パワハラ会議における以下の鬼舞辻󠄀無惨氏の発言は、現実のワンマン経営者たちが日ごろ部下に対して行っているものとさして変わりないのではないでしょうか。
誰が喋って良いと言った?
貴様共のくだらぬ意思で物を言うな
私に聞かれた事にのみ答えよ
黙れ 何も違わない 私は何も間違えない
全ての決定権は私に有り 私の言うことは絶対である
お前に拒否する権利はない
私が“正しい”と言った事が“正しい”のだ
お前は私に指図した
死に値する
営業成績の不振などについて問い詰められている際に、どのような弁解をしても聞いてもらえなかった経験はないでしょうか。
黙っていたら怒られ、発言するとさらに怒られる場に居合わせたことはないでしょうか。正直な発言を促されたのに、正直に発言したら烈火のごとく怒られた経験はないでしょうか。
絶大な権力を持った人間は、自分が正しいと思い込み、自分が欲している回答以外の発言を一切受けつけないことはめずらしくありません。そして、そもそもほしい回答など存在せず、パワハラを行うこと自体が目的の場合も多々あります。
機嫌の悪い、理屈の通じないワンマン経営者の前に立ったが最後、ただ大人しく嵐が過ぎ去るのを待つしかないのです。
パワハラ会議で生き残るために
もし、私たちがパワハラ会議の場に居合わせたとしたら、どのような行動をとることが生存率を上げることにつながるのでしょうか。
ここでは、鬼舞辻󠄀無惨氏のパワハラ会議における唯一の生存者である下弦の壱・魘夢氏の行動に注目してみたいと思います。
ポイントは、以下の2点です。
- 余計な発言はしない
- 相手の全てを肯定する
下弦の壱・魘夢氏は、発言を促されるまで一切言葉を発さず、発言を許された際は、鬼舞辻󠄀無惨氏による会議進行の全てを心から賛美し、肯定することで、鬼舞辻󠄀無惨氏に気に入られ、臨時ボーナスまでもらって解放されています。
本来、会社の会議というものは、事業の成功のために、互いに意見を交わし合い、意見の対立があれば、議論をつくすことで、一つひとつ解決に導いていくべきものです。
上長の意見が間違っていると感じたならば、反対意見をぶつけるのも参加者の大事な役割です。
しかし、それは相手が論理的に対話ができる人物である場合にかぎられます。
相手が論理的な対話をするつもりがさらさらなく、自身が満足することのみを求めている場合、こちらが正しい会議を行おうと努力しても、無駄な労力を割くだけの結果に終わってしまいますし、最悪処分されてしまいます。
それならば、そのような生産性のない会議もどきは、相手のことを全肯定し、機嫌をとってさっさと終わらせるのが、賢い選択だと言えるのではないでしょうか。
正しい行動は、その正しい行動が有効に働く場を選んで行うことをお勧めします。
いつも正しくあろうとすると、疲弊してしまいます。賢く、効率的に働きましょう。