あまり疑問を持たずに、“そういうものだ”と受け入れがちな、様々なビジネスマナーや会社のルール。
しかし、ふと、「これは何の意味があるのだろう…」、「無駄なだけなのでは…」という思いにかられることもあるのではないでしょうか。
実際に、必要性の見いだせないビジネスマナーや会社のルールに対しては、「なぜ必要なのか」、「いらない」、「くだらない」などといった意見が多く聞かれます。
そこで今回は、そのような無駄なビジネスマナーや会社のルールが、なぜ存在しているのか、無駄だとわかった上で、どのように向き合っていくのが適切なのかについて考えていきたいと思います。
目次
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無駄なビジネスマナー/ルールの具体例
まずは、無駄なビジネスマナーや会社のルールの具体例について、いくつか見ていきたいと思います。
上座・下座
ゲストなのかホストなのかや、役職、先輩後輩などの上下関係により、座る位置や立つ位置が決まっているとするマナー、ルールが、上座(かみざ)・下座(しもざ)です。
応接室、会議室、宴席での座る場所から、タクシーなどの車の座席、エレベーターでの立ち位置に至るまで、あらゆるものに上座・下座が存在しています。
しかも、宴席では和室、洋室、中華テーブル、カウンター席などの様々なパターンがあり、日本と海外など地域ごとのルールの違いも存在し、景色や日当たり、冷暖房による相手を気遣った柔軟な対応も求められます。極めるにはそれなりの努力が必要となる分野だと言えます。
日本における、上座・下座の始まりは室町時代だと言われています。当時は、身分制社会であり、身分の上下は、直接、支配、被支配の関係に結びつきました。その点では、上座・下座で身分の違いを明らかにすることに、社会的な意味があったと言えるでしょう。
一方で、現在は、名目上は身分差のない平等な社会とされています。会社における役職も、組織上の単なる役割であり、人間としての上下、えらい、えらくないを決めるものではありません。
そのような中で、上座・下座のマナー、ルールを続けることに、何か意味はあるのでしょうか。上座・下座のマナー、ルールを極めたからといって、その人個人の仕事のパフォーマンスが上がるわけではありません。また、上座・下座のマナー、ルールがなくなったとしても、困ることは何もありません。
相手への敬意という点で大事だと言うのならば、相手の上下によって対応に差をつける、このような形だけの示し方ではなく、相手の上下に関係なく、誰に対しても敬意を払い、相手のことを考えた対応を行えばよいだけです。
「了解しました」NG
相手に対して応諾したことを伝える言葉として、「了解しました」があります。
しかし、取引先や目上の人に対しては、単なる丁寧語である「了解しました」ではなく、謙譲語である「承知しました」、「承りました」、「かしこまりました」を使うのが好ましいとされています。
一方で、「了解しました」も「了解いたしました」にすることで謙譲語となるため、理屈の上では取引先や目上の人に対して使ってよいことになります。ですが、受け取る側に丁寧語と謙譲語とを区別できるほどの教養が備わっていない可能性もあるため、「了解しました」と近しい言葉である「了解いたしました」は、念のため取引先や目上の人には使うべきではないという風潮にあります。
このような、細かなルールに気をつかっていること自体が非生産的だと言えます。丁寧語であれば、誰に対しても失礼にあたらないというルールへと変更し、その分、仕事の中身に集中した方がよいのではないでしょうか。
“正しい日本語”を大切にし、受け継いでいく必要性もわかりますが、言葉は時代とともに変化していくものです。“正しい日本語”にしばられすぎて、無駄な労力を生じさせるのは、進歩がないのではないでしょうか。
名刺交換
社会人の挨拶の基本となっているのが名刺の交換です。そして、名刺交換にも様々なマナー、ルールがあります。
名刺交換は立って行う、机越しには行わない、名刺は名刺入れから出して渡す、両手で持って渡す、受注側から渡すなどのルールの他に、相手が複数人の場合は渡す順番や、机の上での名刺の並べ方にも気を配らなければなりません。
本来、名刺交換の目的は、挨拶であり、相手に顔と名前と所属と役職を知ってもらうことです。
その目的を達成するのに、前述のマナー、ルールに、いったいどれだけの意味があるのでしょうか。
丁寧に、わかりやすく、普通に渡せば、それでよいのではないでしょうか。
スーツ・ネクタイ・パンプス・ハイヒールの強要
仕事を成し遂げるのに、スーツやネクタイ、パンプス、ハイヒールを身につけることは、はたして必要なことなのでしょうか。
制服のように、顧客相手に見た目で役割をわかりやすく伝える目的などがないかぎりは、自分自身で仕事がしやすい恰好を選ぶのが合理的なのではないでしょうか。
その他の無駄なマナー/ルール
その他にも、ドアのノックの回数、自身のハンコを上席の者のハンコに向かってお辞儀をしているように傾けて押すお辞儀ハンコ、客先で出されたお茶を飲むべきか否か問題、上司よりも先に帰らないなど、合理的な理由のないマナー、ルールに人々は日々翻弄されています。
お酌のときにラベルの向きに気をつかうと、仕事ができるようになるのでしょうか。そもそも、宴席でのお酌は、皆、自分のペースで飲めるように、自ら手酌で行う方がよいのではないでしょうか。
無駄なのになぜ存在するのか
なぜ、会社は、そのような無駄なマナー、ルールに満ちているのでしょうか。
本来マナーとは、人間が社会を形成し、集団行動をとる上で、互いに敵対せず、円滑に活動するための合意事項、約束事(ルール)です。その根底にある、互いを尊重し、ゆずり合う精神は、社会生活において大切なものだと言えます。
しかし、人類の長い歴史の中で、本来の目的が薄れ、形だけが残ったマナー、ルールや、相手を不快にさせないために、念のため拡大解釈を施し、本来の目的から外れていった無駄なマナー、ルールが氾濫しているのが実情だと言えます。
そして、人々は、そのような形式的で無意味となったマナー、ルールを、自身のコミュニティの同族意識、仲間意識を醸成するために利用するようになりました。自分たちが受け入れているマナー、ルールを、「知っている人間は“わかっている”仲間」、「知らない人間は恥知らずの排斥対象者」として、選別するものさしとしたのです。
本来の目的が希薄になったとしても、人間の動物的で排他的な縄張り意識との相性がよく、マナー、ルールを知らない相手へのマウンティング行為にも使い勝手がよいため、その存在がなくなることはないでしょう。
無駄なビジネスマナー/ルールへの賢い向き合い方
それでは、そのような決してなくならない無駄なマナー、ルールと、どのように向き合っていけばよいのでしょうか。
ポイントは、以下の3点になります。
- 効果のある相手には効果がある
- 相手の価値観を見極める
- ツールと割り切って有効利用する
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
1. 効果のある相手には効果がある
合理的に考えれば無駄なビジネスマナーや会社のルールも、それが必要なものだと信じている人たちにとっては、意味と価値があり、守るべきものとなります。
逆に言えば、合理的には無駄であっても、それが市民権を得ている以上、多くの人の心情をコントロールするのに効果があるのです。
まずは、自分自身にとって合理的か否かはいったん置いておき、相手の心情をコントロールするのに有効なものであると考えを改めましょう。
2. 相手の価値観を見極める
相手によって、好まれる、有効なマナー、ルールは異なります。
古臭い無駄なマナー、ルールをこよなく愛する人がいる一方で、それらをバカにしている人、嫌っている人も少なからずいるものです。
相手の身なりや言動、仕事のスタイルから、相手が何を大切にしていて、何を無駄だと考えているのかを見極めることをお勧めします。
その判断に失敗することで、理不尽にコミュニティから排斥されることも少なくありません。採用面接などは、その最たる例でしょう。面接時だけではなく、新卒入社時や中途入社時にも、今後の人間関係のために、周りの人たちの価値観を知ることが大切です。
相手の価値観を見極めた上で、適切なマナー、ルールを用いていきましょう。
3. ツールと割り切って有効利用する
無駄なマナー、ルールにうんざりする気持ちもわかりますが、有効な場面がある以上は、うまく利用していくのが賢い選択だと言えるでしょう。
人間という生き物をうまくコントロールするためのツールの一つだと割り切って、有効活用することをお勧めします。
そして、そのためには、残念ながら、それらのマナーやルールを知っておく必要があります。人間という生き物をうまくコントロールするための説明書の一つだと割り切って、基本は押さえておくことをお勧めします。
まとめ:時代とともに変わるマナー/ルール
マナー、ルールは、時代とともに変わっていくものです。
例えば、最近では、男性のノーネクタイを許容する価値観が広く浸透してきました。職場でパンプスやハイヒールを強制されることに対して、女性たちが反対の声をあげた#KuTooという運動も起こりました。また、コロナ禍によって、直接接触が忌避されるようになった結果、宴会はその姿を大きく変えています。
名刺交換はまだあまり変わりがないようですが、直接接触行為であるため、今後どのようなマナー、ルールの変更が起こるかわかりません。
無駄なマナー、ルールも、徐々に合理的な変革が起こっています。何でも“そういうものだ”と考えなしに受け入れるのではなく、好ましい改革の動きには加勢をしつつ、旧態依然とした不合理なマナー、ルールも今までどおりうまく利用していく柔軟な対応が求められています。