女は結婚・出産で辞めるから採用するなら男…? その発言の問題点

男女格差のイメージ

筆者の勤める会社で中途採用を進めていた際に、能力と人柄から一人の女性を採用することになりました。

しかし、そのとき筆者の上司が発した言葉は、「女はすぐ辞めるから採用するなら男がよかった」でした。

詳しく話を聞いてみると、「女は結婚と出産で離脱する可能性が高いから、男を採用する方が理にかなっている」とのことでした。

男女雇用機会均等法の観点からも、昨今の社会常識からも、決して許されない発言ですが、まだまだそのような考えを持っている人は多いのが現実です。

今回は、なぜそのような発言が社会通念上許されないのか、そもそも本当に女性よりも男性を採用した方が会社のためになるのかについて、考えていきたいと思います。

目次

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女性の離職率は男性より4%ほど高い

まずは、事実関係から確認しておきたいと思います。

厚生労働省の『2019年(令和元年)雇用動向調査』によると、正社員に限定した場合の女性の離職率は14.2%、男性の離職率は9.9%となっており、女性の離職率が男性よりも4%程度高い状態となっています。

同調査で、その離職理由を見ていくと、正社員を離職した女性の中で、結婚、出産、育児を離職の理由とした人が6.5%いるのに対して、同じ理由で離職した男性は0.1%となっており、女性が男性よりも結婚、出産、育児を理由として離職していることがわかります。

また、内閣府男女共同参画局の『男女共同参画白書 平成25年版』によると、女性の平均勤続年数は8.9年、男性の平均勤続年数は13.2年となっており、10年以上の勤続者割合は、女性では約3分の1であるのに対して、男性では約半数となっています。

男を採用した方がいい、は正論なのか

ここで、「やはり女よりも男を採用した方がよい」、「正論を言うことがとがめられる世の中はおかしい」と考えてしまった方は、価値観のアップデートが必要です。

なぜ、そのような考えが不見識とされ、現在の社会では受け入れられないのか、以下の3つの観点で見ていきたいと思います。

  1. 女性に役割を押しつける社会の歪み
  2. 女性の離職が多い会社はダメな会社
  3. 男女二元論は短慮にすぎる

1. 女性に役割を押しつける社会の歪み

女性の離職率が男性よりも高くなる原因の根本は、男性は外で働き、女性は家庭で家事や育児に勤しむのが望ましいという旧態依然とした価値観にあります。

我々は、個人の自由を互いに尊重できる、成熟した社会で暮らしています。個人の希望や意思を無視し、男性、女性という枠組みで、果たすべき役割を押しつけるのは、明確な過ちだと言えるようになりました。

しかし、平均年収が下がり続け、多くの家庭で共働きでなければ家計を維持することが困難となった現在においてもなお、一方的に女性に家事や育児を押しつける風潮は色濃く残っています。

共働きであれば、背負っている仕事への責任は男性も女性も同じであり、家事や育児の負担は男性と女性が半分ずつ背負うのが道理です。それにもかかわらず、男性は何かと理由をつけて、その負担を女性だけに背負わせがちです。

そして、仕事と家事・育児の両立が難しくなってしまった女性は、離職や時短勤務への移行などの道を、仕方なしに選ばされてしまうのです。

「女より男を採用した方がいい」論は、このような是正されるべき社会の歪みを前提として成り立っており、その意見を肯定することは、女性に一方的に負担を押しつけている現状をも肯定することにつながってしまいます。

2. 女性の離職が多い会社はダメな会社

会社によって、女性の離職率には大きな差が生まれています。

女性の離職率が高い会社は、残業が多い、有給休暇を自由に取得できない、柔軟な働き方ができないなどの理由で、家事や育児の役割を押しつけられた女性にとって、仕事と家事・育児の両立が難しくなってしまう職場環境だと言えます。ワーク・ライフ・バランスの実現が難しい会社なのです。

そのような会社は、当然、男性にとっても働きにくい、劣悪な職場環境の会社となります。

「女より男を採用した方がいい」論を正論だと主張する人は、女性の離職が多い会社に勤めている人なのでしょう。すなわち、自身の働いている会社が、女性はもちろん、男性にとっても働きにくい、劣悪な職場環境なのだと主張しているのです。

3. 男女二元論は短慮にすぎる

優秀で長く働く女性もいれば、優秀ではなくすぐに辞めてしまう女性もいます。優秀で長く働く男性もいれば、優秀ではなくすぐに辞めてしまう男性もいます。

採用に際して、男性か女性かの二元論で個人の資質を判断できれば楽ではありますが、結局は一人ひとり、どのような人物かをきちんと見極める必要があります。

女性と男性の離職率の差は約4%にすぎず、女性の平均勤続年数は女性の社会進出とともに長期化傾向にあります。

個人を、男性と女性という限られた属性で評価するのは、賢い行いとは言えません。そして、そのような不見識な人材が存在することこそ、会社のためにならないのではないでしょうか。

見識のない発言は恥をかくだけ

繰り返しになりますが、筆者の上司のように、「女はすぐ辞めるから採用するなら男がよかった」などと発言するのは、「私は見識のない、古い価値観のままの人間です」、「私の勤めている会社は劣悪な職場環境のブラック企業です」と言っているのと同じです。

そもそも、男女雇用機会均等法は、募集・採用を含む雇用管理における性別を理由とした差別を明確に禁止しています。法律違反につながるような発言を不用意にしてしまうのは、社会人としてかなり深刻な状態だと言わざるをえないでしょう。

もし、上司が部下たちの前そのような発言をしても、皆、事を荒立てたくないため、軽く流して話を合わせてくれることと思いますが、心の中では軽蔑し、評価を改めていることを知っておく必要があります。

本当に男性を採用した方が会社のためになるのか

それでも、女性には産前産後休業という男性にはない長期離脱の可能性があることから、やはり男性を雇う方がリスクが少ないという意見があります。

しかし、あくまで筆者の個人的な見解ですが、様々な人と仕事でたずさわってきたかぎり、男性はその場その場での最適な行動よりも、自身の体面、プライドを優先する非効率な対応を選ぶことが多く、権力に迎合し、上の立場の人間の過ちには口をつぐむ一方で、下の立場の人間には高圧的な態度を取り、支配欲を満たす人が多いように見受けられます。

本当に、男性を採用した方が会社のためになるのでしょうか。

前述のとおり、会社のためになる人材か否かは、個々人の資質で判断すべきですが、どういった人たちが会社を腐らせ、ダメにしているのか、今一度考えてみるとよいのかもしれません。