フリーランスが理不尽なクライアントから身を守る方法 - その要求は違法です

高圧的なビジネスパーソン

企業と仕事をする際のフリーランスは、多くの場合、弱い立場に立たされます。

それは、発注する側と受注する側という立場の違いや、組織と個人という人的、社会的、資金的な力の差など、様々な要素が重なり合って、露骨な上下関係となることも少なくありません。

しかし、本来は単なる受発注契約であり、そこに上下の力関係などはなく、対等なビジネス上の付き合いのはずです。

今回は、なぜフリーランスに対して理不尽な対応を行う企業が存在するのかや、フリーランスが自分の身を守るためにできることは何なのかなどについて、考えていきたいと思います。

理不尽なクライアントの正体は

まずは、敵を正しく知ることが重要です。フリーランスに理不尽な対応を行うモンスタークライアントをタイプ別に分類すると、以下のようになります。

  • ただ単に仕事ができない担当者
  • 多忙すぎて余裕がない担当者
  • 社内から様々な圧力を受けている担当者
  • 厳しく締めつけないといけないを思い込んでいる担当者
  • 受発注の上下関係を利用して支配欲を満たそうとする担当者

内的要因、外的要因を問わず、多種多様な理由で、企業担当者はモンスタークライアントとなってしまいます。決して例外的なものではなく、一般的な存在であることを認識しなければなりません。

それでは、それぞれのタイプについて、詳しく見ていきたいと思います。

ただ単に仕事ができない担当者

純粋に仕事ができないだけの企業担当者はやっかいなものです。

まず、予見性がなく、時間軸を理解することができないため、まともなスケジュールを引くことができません。そのため、ぎりぎりのタイミングでの発注を行ってきたり、納品まで時間がない中、無茶な修正を依頼してきます。

また、仕事の手順を理解することができないため、社内で予算の確保を行っておらず、支払いが滞るなどの事案も発生しがちです。

相手の仕事内容への理解、想像力も足りていないため、「それくらいすぐできるでしょ」などと気軽なリテイクも出してくることでしょう。

法律的な知識もないため、社会の基本ルールすら逸脱してきます。

そして、最大の問題は、自らが間違っていると決して認めない人が多いことです。金を支払っている自分の要求は当然かなえられるものだと頑なに信じています。

このような企業担当者は、中小企業、大企業を問わず、存在しています。当たるか当たらないかは運です。

多忙すぎて余裕がない担当者

多くの企業担当者は多忙です。あまりに余裕がなくなってしまった結果、「ただ単に仕事ができない担当者」と同じような理不尽な対応を行ってしまうことがあります。

また、心の余裕がないために、乱暴な対応をしてしまうこともあります。

本来は、きちんと仕事をする人なのかもしれません。心やさしい人なのかもしれません。ある種、会社の被害者だと言えるでしょう。

社内から様々な圧力を受けている担当者

会社で仕事をしていると、上司や先輩から様々なありがたい助言を頂戴します。

フリーランスの人と進めている案件についても、デザインが固まった段階で、「やっぱりそれじゃダメだからやりなおさせといて」とリテイクを指示されたり、金額がすでに合意済みなのに、「これにこの金額は払いたくないから値切っといて」などと理不尽な指示をされたりすることはめずらしくありません。

フリーランスの人と誠実に仕事がしたいのに、上司や先輩からの指示には逆らえない、板ばさみ状態の企業担当者です。

厳しく締めつけないといけないを思い込んでいる担当者

他者に仕事を依頼し、その進捗や品質を管理する際に、相手を厳しく締めつける以外の方法を知らない企業担当者がいます。

きちんと自分で進捗や品質を管理し、仕事をこなせる大多数のフリーランスの人たちにとっては、企業担当者から信頼され、ある程度自由に任せてもらえる方が、仕事がしやすく、モチベーションも向上することでしょう。

しかし、中には、スケジュールを守れなかったり、質の担保を放棄してしまうフリーランスの人がいるのも事実です。そのような人たちと仕事をしてきた企業担当者は、十把一絡げに、フリーランスの人たちに厳しく対応するようになってしまいがちです。不幸が更なる不幸を生んでいます。

受発注の上下関係を利用して支配欲を満たそうとする担当者

多くの人間は、権力を誇示するのが好きです。他者を支配するのが好きです。発注する側と受注する側という力関係は、ときに人を狂わせます。

意味もなく理不尽な指示をして、従わせることに快感を得るような企業担当者も存在しています。

精神的ストレスが強い職場に勤めている企業担当者は、特にそのような力関係を利用して自身のストレスを解消する傾向にあります。

フリーランスが自分の身を守る方法は

様々なタイプのモンスタークライアントをご紹介してきましたが、彼らに共通していることは、いくら正論で訴えかけても、その行いが正される可能性は低いということです。

フリーランスが自分の身を守るためには、モンスタークライアントをいかに避けるか、出会う確率をいかに下げられるかが重要なポイントとなります。

危ない会社を見極めるには

モンスタークライアントは、会社の規模を問わず潜んでいます。大きな会社の企業担当者であっても、心に余裕があっておおらかな人がいる一方、フリーランスの人を見下す横柄な態度の人もいるものです。

そのような中で、モンスタークライアントを避けていくためには、生きた情報をいかに手に入れられるかが大切なポイントとなります。

企業から問い合わせを受けた際などは、必ずWeb上で会社名を検索して、悪い評判がないか調べてみることをお勧めします。他のフリーランスの人の体験談だけではなく、長時間労働や、その他法令違反、コンプライアンス意識の欠如で話題になっていないかにも注意が必要です。社会のルールを守れない会社ほど、モンスタークライアントが潜んでいる可能性が高いものです。

また、フリーランスの仲間と情報交換のネットワークを作ることで、危険な担当者がいる会社の情報を共有し合ったり、逆に、良い企業担当者を紹介し合うなどの互助活動を行うのも一つの方法です。

良い企業担当者を手放さない

いくら会社の情報を集めたとしても、残念ながら、最終的には企業担当者個々人の人間性に寄るところが大きいのが現実です。

良い企業担当者にめぐりあえた際には、その縁を大切にし、例え、他の縁を犠牲にしてでも、最優先でその関係を維持するように努めましょう。

それでも、企業には異動が付き物です。懇意の企業担当者が異動してしまった際に、いきなり食い扶持がなくなってしまわないように、懇意にする企業担当者は常に複数持てるように努力し、担当者の異動に際しては、次の担当者を紹介してもらえるように日ごろから要望を伝えておきましょう。

フリーランスを守ってくれる「下請法」を知る

政府も法律の整備を行うことで、弱い立場の受注側を守ろうとしてくれています。その一つが「下請法」です。

下請法では、発注する側の親事業者に、以下の4項目の義務を課しています。

  1. 書面の交付義務
    発注の際は、直ちに3条書面(発注に際しての具体的記載事項をすべて記載している書面)を交付すること。
  2. 支払期日を定める義務
    下請代金の支払期日を給付の受領後60日以内に定めること。
  3. 書類の作成・保存義務
    下請取引の内容を記載した書類を作成し、2年間保存すること。
  4. 遅延利息の支払義務
    支払が遅延した場合は遅延利息を支払うこと。

また、発注する側の親事業者に、以下の11項目の禁止事項を課しています。

  1. 受領拒否
    注文した物品等の受領を拒むこと。
  2. 下請代金の支払遅延
    下請代金を受領後60日以内に定められた支払期日までに支払わないこと。
  3. 下請代金の減額
    あらかじめ定めた下請代金を減額すること。
  4. 返品
    受け取った物を返品すること。
  5. 買いたたき
    類似品等の価格又は市価に比べて著しく低い下請代金を不当に定めること。
  6. 購入・利用強制
    親事業者が指定する物・役務を強制的に購入・利用させること。
  7. 報復措置
    下請事業者が親事業者の不公正な行為を公正取引委員会又は中小企業庁に知らせたことを理由としてその下請事業者に対して、取引数量の削減・取引停止等の不利益な取扱いをすること。
  8. 有償支給原材料等の対価の早期決済
    有償で支給した原材料等の対価を、当該原材料等を用いた給付に係る下請代金の支払期日より早い時期に相殺したり支払わせたりすること。
  9. 割引困難な手形の交付
    一般の金融機関で割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること。
  10. 不当な経済上の利益の提供要請
    下請事業者から金銭、労務の提供等をさせること。
  11. 不当な給付内容の変更及び不当なやり直し
    費用を負担せずに注文内容を変更し、又は受領後にやり直しをさせること。

これらを守らない企業担当者は、明らかな法令違反を犯しています。告発し、是正を促すべきでしょう。

実際に、下請法の違反行為に対して、公正取引委員会から平成28年度で11件、平成29年度で9件、平成30年度で7件の勧告が出されています。

平成28年度に下請法勧告を受けた会社の一覧
株式会社日本セレモニー/株式会社ファミリーマート/株式会社シジシージャパン/株式会社JFRオンライン/株式会社ユーシン/株式会社農協観光/株式会社ニッド/株式会社プレナス/株式会社あらた/株式会社井筒授与品店/アトムリビンテック株式会社
平成29年度に下請法勧告を受けた会社の一覧
株式会社久世/山崎製パン株式会社/寿屋フロンテ株式会社/タカタ株式会社/株式会社セブン-イレブン・ジャパン/株式会社伊藤園/サトープリンティング株式会社/DXアンテナ株式会社/株式会社大冷
平成30年度に下請法勧告を受けた会社の一覧
マル厨工業株式会社/小野建株式会社/全日本食品株式会社/磯川産業株式会社/株式会社サンリオ/アイア株式会社/株式会社柿安本店

現実には、生きていくために、発注側の不法行為を受け入れなければならない場面があるのかもしれません。しかし、そのような会社の相手に時間を割くならば、自分の将来のためにもその時間を他の優良な顧客の開拓に使わなければなりません。

「消費税転嫁対策特別措置法」を知る

また、消費税転嫁対策特別措置法では、消費税の増税があったにもかかわらず、発注金額に増税分の金額を上乗せしない、実質的な発注金額の値下げを行うことを禁止する対策も行われています。

消費税転嫁対策特別措置法の違反行為に対しては、公正取引委員会から平成28年度で6件、平成29年度で5件、平成30年度で5件の勧告が出されています。

平成28年度に消費税転嫁対策特別措置法勧告を受けた会社の一覧
株式会社Q配サービス/株式会社松下サービスセンター/株式会社APサービスセンター/株式会社KATEKYOグループ/株式会社スーパーホテル/株式会社帝国データバンク
平成29年度に消費税転嫁対策特別措置法勧告を受けた会社の一覧
住友不動産株式会社/株式会社ニチイ学館/株式会社西日本新聞社/エコロシティ株式会社/株式会社山野楽器
平成30年度に消費税転嫁対策特別措置法勧告を受けた会社の一覧
紅屋商事株式会社/株式会社マイナビ/株式会社マイナビ出版/株式会社イトーヨーカ堂/株式会社ジャパンビバレッジホールディングス

多くの有名企業が、受注する側に不利益となる違法な対応を行っているのが現実です。

現実を理解して図太く生き残る

ここまで、フリーランスに理不尽な対応をするクライアントと、その対処法についてご紹介してきました。

どれだけ理想論を述べたところで、フリーランスの立場が企業と比べて弱いことに変わりはなく、法律違反をする企業はあとを絶ちません。

結局は、泥臭い地道な営業活動の中で、優良なクライアントを偶然探し当て、手放さないように努力することが、一番の対処法となってしまいます。しかし、そのような中でも、日々の仕事を誠実にこなし続けることが、良縁を得る近道となることでしょう。

シゴトコは、フリーランスの皆さまを応援しています。