新型コロナウイルスやインフルエンザに感染しての出勤は違法? 罰則は?

マスクのビジネスパーソン

いくら注意をしていても、病気になることはあります。

特に、通勤電車や職場といった、他人と否が応でも同じ空気を吸わなければならない空間において、新型コロナウイルス(COVID-19)やインフルエンザウイルスといった感染力の強いウイルスから身を守れるか否かは、個人の免疫力などでの差異はありつつも、最終的には完全な運だと言えるでしょう。

そのような中、コンプライアンス(法令遵守)意識の低い会社では、たとえ他者への感染が危惧される病気になったとしても、上司による出勤の強要や、自主的な(または無言の圧力による)病名を隠しての出勤が行われることはめずらしくありません。

しかし、そのような行為は、自分だけではなく他者の生命を危険にさらすものであり、多くの場合、法律や就業規則で規制されています。

今回は、新型コロナウイルスやインフルエンザに感染しての出勤が法律違反にあたるのかや、罰則はあるのかなど、意外と知られていない病気と出勤のルールについてご紹介していきたいと思います。

目次

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法律で就業禁止となる病気とならない病気

感染症法の第18条と労働安全衛生規則の第61条は、特定の病気にかかった際の就業の禁止を定めています。

そして、その対象となる具体的な病名については、感染症法の第6条において定められています。

感染症法とは

正式名称は、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」と言います。

「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関し必要な措置を定めることにより、感染症の発生を予防し、及びそのまん延の防止を図り、もって公衆衛生の向上及び増進を図ること」を目的としています。

感染者の人権を尊重するなどの基本理念や、国及び地方公共団体、国民、医師、獣医師等の責務について定めている法律です。

この法律では、感染症を「1類感染症、2類感染症、3類感染症、4類感染症、5類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症及び新感染症」という区分を用いてカテゴライズし、それぞれに実施できる措置が決められています。

季節性インフルエンザと呼ばれる一般的なインフルエンザについては、感染症法の5類感染症に分類されており、法律として就業制限を受けることはありません。

新型コロナウイルス感染症(関連肺炎)は、感染症法の指定感染症に指定された後、新型インフルエンザ等感染症に移行し、法律として就業制限を受ける形が続いてきましたが、2023年5月8日より、季節性インフルエンザと同等の5類感染症に分類されることとなり、法律として就業制限を受けることはなくなりました。

鳥インフルエンザや新型インフルエンザなどの特定のインフルエンザについては、感染症法上の分類によって行動制限の対象となります。一口にインフルエンザと言っても、その特性による危険度の違いによって扱いが違うことには注意が必要です。インフルエンザとの診断を受けた際には、医療機関からどのタイプのインフルエンザかの説明があるはずですので、きちんとタイプを認識しておくことが大切です。

その他、エボラ出血熱、SARS、痘そう、ペスト、コレラ、細菌性赤痢、腸チフス、結核、E型肝炎、A型肝炎、マラリア、梅毒、麻しんなども感染症法上の分類によって行動制限の対象となっています。基本的には、出勤したくても症状的にできないものがほとんどだと言えます。

法律による就業制限時に出勤したときの罰則は

法律により就業制限が科せられているにも関わらず、会社が感染の事実を知っていて社員を出勤をさせた場合、事業者(会社)が、労働安全衛生法の第119条の第1項に基づき、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金を科される可能性があります。

また、出勤をした本人については、他者に感染させた場合にその責任が認められる際には、他者を害したことによる傷害罪が適用される可能性や、相手から治療費の請求や休業補償などの損害賠償を請求される可能性があります。

もし、感染させた相手が亡くなってしまった場合、その責任の度合いにより過失致死罪が、殺意を持って故意に感染させれば、当然殺人未遂罪や殺人罪が適用されることでしょう。病気を隠して出勤し、会社に損害を与えた場合は、会社からも損害賠償を請求される可能性があります。

法律による就業制限時に休業手当は出る?

運悪く、有給休暇が残っていないときに、法律で就業が禁止されている病気になってしまった場合、休業手当は支払われるのでしょうか。

法律上は、「使用者の責めに帰すべき事由」がある場合は休業手当が支払われることになり、「使用者の責めに帰すべき事由」がない場合は休業手当が支払われないことになります。

法律による就業の禁止は、「使用者の責めに帰すべき事由」ではないため、残念ながら休業手当が支払われません。有給休暇は大切にしましょう。

5類感染症なら出勤してもいいのか

感染症法上の就業制限の対象ではない季節性インフルエンザや新型コロナウイルスなどの5類感染症に感染している人間の出勤を制限する明確な法律は存在していません。

しかし、その出勤が、感染している社員自身や、感染する可能性がある周りの人たちの安全を損なう可能性があるのは疑いようのない事実です。

そのため、もし、会社が、季節性インフルエンザや新型コロナウイルスに感染している社員に出勤を指示したり、強要した場合、労働者の安全への配慮(いわゆる安全配慮義務)を定めた労働契約法の第5条の「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」という内容に違反していると言えます。

普通は就業規則で出勤を禁止している

労働者に対する「安全配慮義務」があるため、まともな会社であるならば、就業規則において、季節性インフルエンザや新型コロナウイルスなどの5類感染症に感染している人間の出勤を禁止しています。

その際に、多くの会社が参考にしているのが「学校保健安全法施行規則」です。

会社とは異なり、学校については、季節性インフルエンザによる出席の停止が、学校保健安全法施行規則の第19条の第2項で法律として定められています。

その条文で示されている出席停止期間である「インフルエンザにあっては、発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日を経過するまで」を参考に、多くの会社が就業規則における出勤停止期間を設定しています。

会社員は、会社と労働契約を結ぶ際に、就業規則の順守を誓っているはずです。季節性インフルエンザや新型コロナウイルスに感染してしまった際は、仕事が立て込んでいようとも、就業規則を守って休みましょう。

なお、季節性インフルエンザや新型コロナウイルスに感染している社員に出勤を指示、強要する会社は、社員にとっても社会にとっても危険です。すぐに退職することをお勧めします。

5類感染症に感染して出勤したときの罰則は

安全配慮義務違反を侵して出勤を強要した会社に対しては、社員が債務不履行責任(民法第415条)や不法行為(民法第715条)による損害賠償を請求する可能性があります。

社員が病気を隠して自主的に出勤をした場合は、就業規則で定めのある会社であれば、就業規則違反として、懲戒処分が下される可能性があります。

また、他者に感染させた際には、他者を害したことによる傷害罪が適用される可能性や、相手から治療費の請求や休業補償などの損害賠償を請求される可能性があります。

さらに、会社に損害を与えた際には、会社からも損害賠償を請求される可能性があります。

5類感染症での休暇時に休業手当は出る?

季節性インフルエンザや新型コロナウイルスなどの5類感染症のように、法律ではなく、会社の就業規則に基づいた休みである場合、「使用者の責めに帰すべき事由」にあたるため、労働基準法の第26条に基づき、平均賃金の60%以上の休業手当が支払われます。

インフルエンザなのに出勤してくる年配社員たち

インフルエンザなのに出勤したことを誇ったり、武勇伝として語る年配社員を見かける機会が無視できない程度にあります。

かつて、自分を殺して会社や仕事に尽くすことが美徳な時代があったのです。どれだけ苦しい状況の中でがんばってきたのかがステータスだった時代があるのです。

そのときの価値観から変われていない人たちが確かにおり、そのような人たちが上司となり、病人に出勤を強要するようになります。

そのようなパワーハラスメントを受けた際は、内部通報制度を活用して、しかるべき部署やさらに上の上司に告発しましょう。会社全体がそのような価値観に支配されている場合は、会社の先行きにも期待できないため、転職することをお勧めします。

体調が悪ければ休む、休ませる

大前提として、体調が悪ければ休みましょう。不意に休んだ社員の抜けた穴を埋めるために組織としてチームとして仕事をしています。もし、あなたが休んだ穴を誰も埋められないならば、それはそのような組織しか作れていない経営陣や上司が悪いのです。

正当な理由なく休暇を許可しない、理不尽なパワーハラスメントを行う会社や上司からは逃げましょう。がんばって戦ったとしても、彼らを変えることはできません。

管理職は、そのようなパワハラ上司にならないように、日ごろから休暇を取りやすい環境を整え、部下の体調面での変化に気を使い、無理な出勤はさせないようにしましょう。

我々は、生きるために働いています。その目的が害される働き方だけは避けなければなりません。

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