手段の目的化とは、もともと目的を達成するための手段として実行していたものが、いつしか手段を実行すること自体が目的となってしまい、本来の目的が見失われた状態を意味します。
会社で、新人の頃に、「手段と目的を混同しないようにしよう」、「手段の目的化には気をつけよう」などと上司や先輩に教わった人も少なくないのではないでしょうか。
しかし、社会人の基本のように言われているにもかかわらず、経営層や管理職ですら手段を目的化している人はめずらしくありません。
そこで今回は、会社で起こる手段の目的化の具体例や、なぜ手段の目的化が悪いのかなどについて、ご紹介していきたいと思います。
目次
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ビジネスにおける手段の目的化とは
ビジネスにおける「手段の目的化」を考える前に、ビジネスにおける「手段」と「目的」が何かについて、確認しておきたいと思います。
会社は、その営んでいる事業を成功させるために活動をしています。そして、事業を成功させるためには、いくつもの課題が存在しているのが常です。
ビジネスにおいては、それらの事業課題を解決することが「目的」、事業課題を解決するために取る方法が「手段」となります。
ビジネスにおける手段の目的化とは、どのような事業課題を解決するためのものなのか、具体的な目的・目標・ゴールがない、またはあいまいなまま、施策を進め、本来は手段であるはずの、施策を進めること自体が目的となってしまっている状態を指します。
そのような手段の目的化は、多くの会社でよく見かける光景となっています。
手段の目的化の会社での具体例
それでは、手段の目的化の会社での具体例を見ていきたいと思います。
AIを導入しよう!
突然、上司が「AIを導入しよう!」と言い出しました。
よく話を聞いてみると、「これからの時代、AIは必要不可欠になるらしいので当社も導入を進めたい」、「他社も続々導入しているようだから、おくれを取るわけにはいかない」とのことでした。
本来のビジネス施策の進め方としては、自社の事業課題の解決策を検討した結果として、AIの導入が必要だという結論が導き出され、「AIを導入しよう!」という流れになります。これは、事業課題の解決という目的に対して、AI導入という手段が用意された形です。
一方で、このケースのように、目的が明確でないまま、聞きかじった話から突然「AIを導入しよう!」とビジネス施策をはじめてしまうと、それは手段であるはずのAI導入自体が目的となってしまっています。
自社が抱えている事業課題に対して、本当にAI導入が実施すべきことなのでしょうか。自社の状況に合わせた他の解決策や、AI導入の前に実施すべきことはないのでしょうか。
オフィスをフリーアドレスにしよう!
突然、上司が「オフィスをフリーアドレスにしよう!」と言い出しました。(フリーアドレスとは、各社員に固定の席を用意せず、自由な席で働くオフィスの形を意味します。)
よく話を聞いてみると、「フリーアドレスは先進的なオフィスの形だ」、「先進的な企業は続々導入しており、当社も続くべきだ」とのことでした。
本来のビジネス施策の進め方としては、自社の事業課題の解決策を検討した結果として、フリーアドレスの導入が必要だという結論が導き出され、「オフィスをフリーアドレスにしよう!」という流れになります。これは、事業課題の解決という目的に対して、フリーアドレス導入という手段が用意された形です。
一方で、このケースのように、目的が明確でないまま、先進的な会社への羨望から突然「オフィスをフリーアドレスにしよう!」とビジネス施策をはじめてしまうと、それは手段であるはずのフリーアドレス導入自体が目的となってしまっています。
自社の事業形態、ビジネススタイルは、本当にフリーアドレスに適しているのでしょうか。フリーアドレスのメリット、デメリットを十二分に検討はできているのでしょうか。働きやすさを改善するために、他に優先して行うべきことはないのでしょうか。
オウンドメディアをはじめよう!
突然、上司が「オウンドメディアをはじめよう!」と言い出しました。(オウンドメディアとは、消費者に向けて自社独自の情報発信をしていくためのWebサイト等の媒体を意味します。)
よく話を聞いてみると、「これからの時代、企業側からの情報発信が重要だ」、「他社もいい感じのオウンドメディアを立ち上げているので参考にすべきだ」とのことでした。
本来のビジネス施策の進め方としては、自社の事業課題の解決策を検討した結果として、オウンドメディアが必要だという結論が導き出され、「オウンドメディアをはじめよう!」という流れになります。これは、事業課題の解決という目的に対して、オウンドメディアという手段が用意された形です。
一方で、このケースのように、目的が明確でないまま、他社の成功事例から突然「オウンドメディアをはじめよう!」とビジネス施策をはじめてしまうと、それは手段であるはずのオウンドメディア自体が目的となってしまっています。
顧客への情報発信手段として、SNSマーケティングやメールマーケティングなど数あるマーケティング手法の中でも、なぜオウンドメディアを採用するのでしょうか。オウンドメディアがどのようなメリットとデメリットがあり、それが自社の事業活動と親和性があるのか十二分に検討はできているのでしょうか。
仕事がつらくて死にそう
最後にご紹介する手段の目的化の具体例は、労働者が仕事の負荷に耐え切れなくなり、心身の健康を害してしまうケースです。
そもそも、仕事とは、生きる、または、人生を幸せにするといった目的を達成するための手段に過ぎません。
それにもかかわらず、生きることや人生を幸せにすることに支障が出るまで、仕事をまっとうしようと働き続ける人は少なくありません。
それは、本来手段に過ぎないはずの仕事が、目的に置き換わってしまっている状態だと言えます。
そのような場合は、いったん立ち止まり、何のために仕事をしているのかを、今一度思い出してみることをお勧めします。
その他、マーケティング現場での手段の目的化の実例も以下の記事でご紹介しています。ご参照いただければ幸いです。
なぜ手段の目的化は悪いのか
手段が目的化してしまうと、以下のようなデメリットがあります。
- 目的が不明確なため、施策内容がぶれ、一貫性のないものとなってしまう
- 目的が不明確なため、施策が成功しているかどうか効果検証ができない
- 目的が不明確なため、そもそも何のために実施しているのかわからない
手段が目的化している施策は、一貫性がないため効果的なものとはならず、効果検証ができないため経営陣に成否について説明することができず、何のために実施しているかわからないためモチベーションも上がりません。
ビジネス施策としての体をまるで成していないと言えます。
手段を目的化しないための施策手順
手段を目的化しないためには、まずはビジネス施策の立案と実行の手順をきちんと整えることが重要です。決して思いつきで施策を立案して、あまつさえ実行しないことです。
以下に、ビジネス施策の立案と実行の手順の例をご紹介します。
- ビジネスの目的・目標・ゴールを設定する
- 目的・目標・ゴールを達成する上での課題を洗い出す
- 課題を解決するための施策を立案し、優先度を決める
- 立案した施策を実施していく
- 実施した結果を目的・目標・ゴールと照らし合わせて検証する
まず何より、目的を明確にすることが大切です。目標の設定に関しては、以下の記事もあわせてご参照ください。
目的が事業課題の解決ではなくなっているケース
たまに、手段が目的化しているのではなく、目的が事業課題の解決ではなくなっているケースが見受けられます。
例えば、目的が事業課題の解決ではなく、自身の上司の満足度向上となっているケースです。
本来、ビジネスパーソンは顧客の目線に立ち、事業課題を考える必要があります。しかし、会社という組織の中で、上司から不評を買わないことしか考えられなくなっている人は少なくありません。
そのような場合、例えば上司が思いつきで「AIを導入しよう!」と号令を発した際に、それが自社の事業の成功にどのように結びつくかなど考えることもなく、上司の思いつきを実現することを目的として、施策進行に勤しむことになります。
上司の顔色のためとはいえ、目的意識自体ははっきりとしているので、ここまで語ってきた手段の目的化とニュアンスは異なってきますが、事業に与える悪影響はまったく同じものとなるので注意が必要です。