喫煙者による勤務時間中のたばこ休憩に対しては、非喫煙者からたびたび不満の声が聞かれます。喫煙する人間だけ休憩時間を多く取ることになっているのではないかという不公平感や、喫煙から戻ってきた人のたばこの残り香への嫌悪感などが主な理由です。
昨今では、そのような不満を受け、勤務時間中の喫煙に一定の制限を課す会社も出てきている一方、特に対応する姿勢を見せない会社も多く存在しています。そのような状況下で、不満を抱える非喫煙者たちは、どのように行動し、考えるのが適切なのでしょうか。
今回は、そもそもたばこ休憩が労働基準法上はどのような位置づけにあるのかや、労働者が勤務時間中の休憩についてどのように考えるべきなのかなどについて、ご紹介していきたいと思います。
労働基準法が定める勤務時間中の休憩
前提として、労働基準法における勤務時間中の休憩について確認してみたいと思います。労働基準法第34条では、以下のように定められています。
- 労働時間が6時間を超える場合は、少なくとも45分間の休憩時間を与えなければならない
- 労働時間が8時間を超える場合は、少なくとも60分間の休憩時間を与えなければならない
- 休憩時間は、労働時間の途中に与えなければならない
- 休憩時間は、労働者に一斉に与えなければならない(ただし、別途、労使協定がある場合はこの限りではない)
- 休憩時間は、自由に利用させなければならない
なお、休憩時間を分割して与えることを禁止している法律がないことから、休憩時間の分割しての付与、利用は原則として可能だとされています。
実際の休憩時間の取得に関するルールの詳細については、労働基準法に基づいた形で、各々の会社における就業規則等で規定されているのが一般的です。
たばこ休憩は労働基準法が定める休憩に当たるのか
それでは、たばこ休憩は労働基準法が定める休憩に該当するのでしょうか。
労働基準法が定める労働者の権利としての休憩時間に該当するためには、「労働者が使用者の指揮命令から完全に解放されており、その時間を自由に利用できる」ことが要件となっており、判例としては、概ね以下の基準が示されています。
職場に付設された喫煙所などでのたばこ休憩は、「上司などからの呼び出しに応じ、すぐに職場に戻り、業務に復帰できる」ことから、使用者の指揮命令から完全に解放されているとは言えず、労働基準法が定める休憩には該当しないと解されます。法律的には、あくまで労働時間中という扱いになります。
この場合は、就業規則などで定められた休憩時間の取得ルールは適用されません。代わりに、たばこ休憩による離席が、ほとんどの会社の就業規則に定められている職務専念義務を逸脱しない範囲か否かが問題となります。しかし、その基準は定量的なものではないため判断は難しく、よほど目に余る状態でもないかぎりは問題ともならないのが現実です。
一方で、職場に喫煙所がないなどの理由で、職場の建物から出て行われるようなたばこ休憩の場合は、「上司などからの呼び出しに応じ、すぐに職場に戻り、業務に復帰できない」ことから、使用者の指揮命令から完全に解放されており、労働基準法が定める休憩と解されることがあります。
この場合は、就業規則などで定められた休憩時間の取得ルールから逸脱して、自分勝手に休憩を取得することは、明確なルール違反となり、サボり行為となります。また同時に、職務専念義務にも抵触することでしょう。しかし、こちらも、よほど目に余る状態でもないかぎりは問題とはならないものです。
不満を抱える非喫煙者にとっては残念なことではありますが、一般的に行われている、ほとんどのケースの勤務時間中のたばこ休憩は、問題とするのが難しいのが現実だと言えます。
なぜ会社はたばこ休憩に寛容なのか
時代の流れは変わりつつありますが、会社の経営層を構成している世代は、仕事中のたばこが当たり前だった時代の人間が多数含まれているため、多くの会社において、たばこ休憩に寛容な状態がいまだ続いています。
人によっては、かつてはオフィスでたばこを吸いながら仕事ができていたのに、今は喫煙所でしか吸えなくなった、追いやられた、喫煙者は被害者であるなどの意識があるのかもしれません。
また、喫煙所における部署横断的なコミュニケーションを礼賛し、たばこをコミュニケーションツールとして肯定する人たちもいます。これに関しては、それが有益なコミュニケーションの場となるならば、本来はオフィス内において公式に同じ枠組みを構築すべきものです。喫煙所で満足し、その場かぎりで済ませているのが組織人として怠慢であることには注意が必要です。
一方で、仮眠については、昨今の各種研究結果において、業務効率を上げる有効性が示されているにもかかわらず、いまだに広く市民権を得ることはできていません。人間は、合理性、科学的な根拠よりも、慣例や印象、自己の価値観を優先しがちな生き物です。経営層を中心として、たばこは仕事の一環だけど居眠りはサボりという価値観が残ってしまっているのではないでしょうか。オフィスで堂々と仮眠を取るには、古い価値観の世代が入れ替わるのを待つ必要があるのかもしれません。
トイレや仮眠の考え方
トイレ自体は生理現象であり、不可避なものです。許す許さないの議題に上げること自体がナンセンスだと言えるでしょう。異様にトイレの回数が多い、時間が長いなどの場合は、会社として社員の健康面の心配を行うのが適切な対応です。
トイレなどでのスマートフォン操作や仮眠に関しては、たばこ休憩と同様、「上司などからの呼び出しに応じ、すぐに職場に戻り、業務に復帰できる」範囲であり、就業規則に規定されている職務専念義務を逸脱しない範囲である限り、本来は非難されるいわれはありません。
しかし、前述のとおり、人間は、慣例や印象、自己の価値観を優先する生き物です。無用な不利益を被らないためにも、周りの価値観に合わせた対応を行う柔軟さは必要だと言えるでしょう。
また、就業規則などで、特殊な制限が定められていないかだけは、念のため確認しておきましょう。
不満を抱える非喫煙者はどうするべきか
不公平感に不満を持つことは、人間として当たり前のことです。しかし、人間社会はそもそも不合理なものであり、あらゆる理不尽がまかりとおっています。そのような状況下において、最も自分にとって利益となる行動は、「他人のことは気にせず、自分のやるべきことをやる」ことです。サボっている人がサボっている間に、自分は努力を積み重ね、成果を着実に出していくことが大切だと言えます。