上司にとって、部下は思いどおりにならないのが常です。
他人を思いどおりにしようとすること自体がおこがましいという考え方もありますが、それでも、チームの業務をスムーズに進行できる程度には部下をコントロールしたいものです。
しかし、上司の有能、無能にかかわらず、多くの部下が、何かしらかの事柄で、上司をバカにしたり、見下したりしているのが実情です。
そして、その行為の大半が、上司の目の届かないところで行われており、そのことに上司が気がついたときには、すでにマネジメントに重大な支障が生じていることもめずらしくありません。
今回は、なぜ部下がすぐに上司をバカにしようとするのか、その理由を明らかにした上で、部下にバカにされている、見下されていると感じたときの対処法を考えていきたいと思います。
なぜ部下は上司をバカにするのか
部下が上司をバカにする、見下す際の理由は、主に以下の2つに分類できます。
- 実際に上司に落ち度がある
- 部下による自己防衛本能の発露
一点目の「実際に上司に落ち度がある」場合は、わかりやすい話で、上司が己の言動を反省し、同じ過ちを犯さないように努力することが対処法となります。
具体的にどのような努力が必要かについては、以下の記事にまとめてありますので、ご参考にしていただければ幸いです。
一方で、上司に落ち度がないにもかかわらず、「部下による自己防衛本能の発露」により、突然、部下が上司をバカにし始めることがあります。
理不尽にも思えるこちらのパターンについて、詳しく見ていきましょう。
部下による自己防衛本能の発露
人間は、自身の自尊心(プライド)が傷つけられることを、本能的に避けようとする生き物です。
自尊心が傷つけられそうな危機を目の前にしたとき、人間は、その思考や感情をコントロールして、なんとかダメージを減らそうと試みます。
その際に行われるコントロールが、「自己の正当化」と「相手への責任転嫁」です。
職場において、上司は、部下の仕事を監督し、教育をするという役割を受け持つため、どうしても、部下の言動に対して否定的な意見を述べる場面が出てきてしまいます。
上司のその言葉を、部下が好意的に受け止めてくれればよいのですが、仕事上の指導や注意を、本能的に自身への攻撃だと受け取ってしまう部下はめずらしくありません。
そのような部下は、ほぼ無意識のうちに、己の自尊心を守ろうとして、「自己の正当化」と「相手への責任転嫁」を行ってしまいます。
「自分は悪くないはずだ」、「あの上司はおかしい、どうかしている」、「正当な評価ができない無能だ」、「そういえば○○なところもおかしかった」などと、上司をバカにし、貶めることで、相対的に自分の地位が下がらないようにコントロールしようとするのです。(そのようなことをしても自分の地位が上がることは決してありません。)
もし、同じような状態に陥っている部下が複数人いれば、一緒に上司の悪口で盛り上がるようになり、いずれチーム全体へとその悪い空気が伝わっていき、チーム全体のパフォーマンスの悪化へとつながることでしょう。
仕事ができない部下は上司をバカにする
しかし、人間は賢い生き物です。冷静に、合理的に考えれば、自分の考えが間違っていることに気がつけるはずです。
なぜ、自分の自尊心を守るためとは言え、人々は客観的で合理的な判断が下せなくなってしまうのでしょうか。
ここで、人間の正しい認識を妨げる認知バイアスの一つである「ダニング=クルーガー効果」について、ご紹介したいと思います。
ダニング=クルーガー効果とは、能力が低い人物ほど、自己の評価を実際よりも高く錯覚する傾向にあるという認知の歪みを意味します。
その原因は、能力の低さにより、「自身に不足があることに気づけない」、「自身の不足に気づけたとしても、その程度を正しく量ることができない」、「当然、他者の評価も正しくできず、自身との比較もできない」ため、自身の能力の絶対的、相対的な評価を正しく行えず、自分は能力が低くないなどといった誤った判断を下してしまうことにあります。
すなわち、仕事ができない部下ほど、自分や上司の能力の程度を正しく認識することができずに、自己防衛本能により上司を逆恨みし、バカにする傾向にあるのです。
部下にバカにされていると感じたときの対処法
それでは、実際に部下にバカにされている、見下されていると感じたときに、上司は部下に対してどのような対処を行えばよいのでしょうか。
上司に落ち度がある場合には、前述のとおり、上司が己の言動を反省し、同じ過ちを犯さないように努力するしかありません。
上司に落ち度がない場合は、前述の、部下の自己防衛本能と認知バイアスを前提として、以下の3つの対処法をお勧めします。
- 部下に寄り添った指導や注意を行うように心がける
- 部下を正しい自己評価に導く
- 注意、指導は人前を行わないようにする
それぞれについて、詳しく見ていきたいと思います。
1. 部下に寄り添った指導や注意を行うように心がける
まずは、部下になるべく敵対心を抱かせないように、指導や注意を行うことを心がけましょう。
厳しい指摘も、あくまで部下のことを考えてのことだと伝わるように、部下の話にも耳を傾けながら、部下の気持ちに寄り添って、指導や注意を行うことが大切です。
その際に重要なのは、頭ごなしに結論だけを伝えるのではなく、何のためにそれが必要なのかの背景まで、しっかりと伝えることです。
「○○はダメ」という伝え方ではなく、「○○だと、××のときに、△△になるので改善しよう」という形で、理由込みの説明を行い、そこから具体的な改善方法を一緒に考えるとよいでしょう。
2. 部下を正しい自己評価に導く
部下が、自身や他者の評価がうまくできずに、自身の不足部分に気がついていないようでしたら、一緒に話し合い、正しい自己評価ができるように手助けをしてあげましょう。
こちらも、部下に敵対心を抱かせないように、部下に寄り添って進めることが大切です。
ただし、自分は間違っていないと思い込んでしまっている人の考えを変えることは、非常に困難です。
時間をかけて、根気よく、自分で自分の不足に気がついてもらえるように、誘導してあげましょう。
3. 注意、指導は人前を行わないようにする
たとえ、部下に寄り添った形で指導や注意が行えたとしても、それを他の社員の前で行ってしまうことで、素直に受け入れてもらえなくなることがあります。
同僚や後輩の前で、己の不足を認めることで、自尊心が傷つけられると感じる人は多いものです。
部下の自己防衛本能が作動しないように、注意、指導は人前を行わないようにしましょう。場合によっては、その精神的苦痛により、パワーハラスメントだと言われることもあります。
まとめ:上司も部下も完璧ではない
上司も部下も完璧な人間ではなく、毎日仕事をしていれば、何かしらか問題は発生するものです。
大切なのは、問題が起こっていることにきちんと気づき、原因を把握し、正しい対処を行うことです。
部下にバカにされている、見下されていると感じたときも、ただ腹を立てるのではなく、人間の特性を理解した上で、原因を考え、解決へと導いていくことが、マネージャーには求められています。